ビジネスメタデータ整備は「大きな戦略、小さな実行」で “AIレディ”な環境実現に向けた具体的ポイント
AI活用の効果を実感できている企業はわずか10%……自社の暗黙知をデータ化する際に気を付けるべき点
メタデータ整備は「Think Big」と「Start Small」で進めるべし
実効性の高いAI活用が可能な状態である「AI Readiness 3.0(データを使いこなせる状態)」に到達するには、段階的なステップが必要だ。まず、データが技術的・品質的に担保され、存在と所在が把握されている「AI Readiness 1.0(データを使える状態)」を目指す必要がある。次に、データの意味や定義が統一・共通化され、ガバナンス的に担保されている「AI Readiness 2.0(データを使っても良い状態)」に進む。この2.0へのステージアップには、ビジネスメタデータによるセマンティックの整備が必須となる。
そして3.0の状態にもっていくには、ビジネスコンテキスト、すなわち業務上の使い方や判断根拠などの整備などが必要となる。AI活用は、生成AIによる業務支援から、Agentic AIやMulti-Agentic AIなどによる業務の代替や自動化へと進んでいく。AI Readiness 2.0以降の段階ではIT部門だけでなく、ビジネス部門が主体となり、メタデータオーナーを中心に部門や業務の暗黙知を形式知化していく役割を担う必要があるのだ。
また、「一連のメタデータ整備のジャーニーを成功させるには、中長期視点から戦略的に描く『Think Big』のアプローチが重要だ」と阿部氏は説明する。戦略策定フェーズでは、業務プロセスとデータの関係性をマッピングし、経営層による投資のコミットメントを得る必要がある。続いて、実装・段階的展開フェーズでは、AIプロジェクトにおけるメタデータの利用を必須化するなど、現場主導の活用文化の定着にフォーカスすることが重要だ。
「戦略は大きく描く一方で、実行は『Start Small』で小さく始めることが成功の秘訣だ」と同氏。完璧主義に陥り、すべてのデータ整備から始めるのではなく、効果はそれほど大きくなくても、スピード感をもって1つのサイクルを回せるような、最小実行可能な範囲のプロジェクトを選ぶことが重要となる。
たとえば、小売業におけるポイントサービスのマーケティング業務において、1つのキャンペーンで顧客行動フローとポイントフローの詳細なマッピングを実施し、担当者へのヒアリングを通じて暗黙知の抽出と文書化を行い、標準フォーマットを作成して試行運用を開始するといったアプローチが考えられる。
このような小さな成功が積み重なると、技術面の改革だけでなく人や組織の意識変革も起こってくる。阿部氏は「技術偏重に陥らず、ビジネスコンテキストである業務理解やプロセスとセットで取り組むことが成功のカギであり、成果が出たら素早くそれをアピールして、社内的な機運を高めることが重要だ」と強調した。
メタデータ整備の取り組みを開始する際には、まず現状の立ち位置を正確に把握することから始めるべきだ。たとえば、メタデータマネジメントの成熟度アセスメントなどを活用し、自社のメタデータの充足度を正しく把握することで、強みや弱みが明確になり改善ロードマップを策定することができる。
Quollio Technologiesは、メタデータマネジメントに特化した専門企業として「Quollio Data Intelligence Cloud」というプラットフォームを提供している。同社は、エンタープライズの複雑な運用要件に耐えうる技術プラットフォームの提供と、日本企業の組織構造や商慣習に沿ったメタデータ整備・活用を実現するためのコンサルティングサービスの2つの側面から、企業のAI、データインテリジェンス活用の実現を総合的に支援しているとのことだ。
AI活用で期待を超える効果を生むには、人による判断の基準や業務の暗黙知、ビジネスコンテキストをAIに理解させることが必要だ。そのための第一歩として、メタデータ、特にビジネスメタデータの整備は必須であり、早期に着手すべき取り組みである。
阿部氏は「暗黙知の消失リスクが加速し、AI活用効果の格差が広がり、それが競争優位性に直結する今、ビジネスメタデータの整備は遅きに失しないうちに始めるべきだ」として、講演を締めくくった。
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
提供:株式会社Quollio Technologies
【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社
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