2026年は成長に向けた打ち手を明確化する(ラクス 中村崇則氏)
2025年は、生成AIやAIエージェントの浸透が一段と進み、バックオフィス業務におけるAI活用が実用フェーズへ移行した一年でした。当社としては、AI時代だからこそ、業務データや業務に関する知見が適切に蓄積・管理され、監査・法令に準拠して業務を遂行できる基盤としてのSaaSの役割がより重要になると考えます。「SaaS is Dead」論が大きな話題になっていますが、現時点ではSaaSとAIとの共存が最適解であることから、むしろ価値が高まると考えています。一方で、SaaS市場は成熟化が進み、新規参入が減少することで主要プレーヤーが固定されつつあります。AI機能の実装は当たり前となり、競争力の強化要因にはならないと考えています。今後は緩やかに業界再編が進む可能性もあると見ています。
株式会社ラクス
代表取締役
中村崇則氏
1973年生まれ。神戸大学経営学部会計学科卒業。日本電信電話株式会社(現NTT)入社。NTT在籍中に起業。2000年に事業を売却し、ラクスの前身となる株式会社アイティブーストを創業。2010年に株式会社ラクスへ社名変更。
こうした状況を踏まえ、次の成長に向けた打ち手をさらに明確にしていく必要があります。当社では、一社のお客様が「楽楽クラウド」の複数サービスをよりシームレスに活用できる環境を整えながら、企業全体の生産性向上に資する価値提供を進めていきます。また、エンタープライズ市場への展開も本格化します。専門組織を立ち上げ、各大企業の課題に向き合う体制を整えていきます。さらに、地方市場への価値提供にも注力し、拠点拡大を進めながら、地域特性に合わせてサービスを提供していきます。これらの取り組みを確実に進め、私たち自身もスピードを上げて変化に適応し続けながら、ITサービスで企業の成長を継続的に支援してまいります。
2026年は全社的なグローバル化を推進する(テルモ 萩本仁氏)
2025年、テルモは中期経営計画である(Growth Strategy 26)の最終年度に向け、多くの変革を加速させた。まず、事業拡大と全社収益性改善プログラムの推進を両輪とし、グループ横断で生産・調達・物流オペレーションの効率化・強化、さらにはファイナンスやITなど間接部門の高度化にも取り組んだ。一方で、関税施策や地政学的リスクなど外部環境の変化は激しく、時間をかけて精緻な情報を集めてから意思決定する手法では、変化のスピードに対して対応が遅れてしまう懸念もあった。多くの地域で事業展開を行っているテルモにとって、いかに最小限の時間と工数で全社の状況を適切に把握し、迅速かつ最適な意思決定を下せるかを考え直す年でもあった。このような外部環境に対しての対応力を上げるためにも、業務効率の改善の一環として現場レベルでのAI活用を日常化すべく、生成AIの国内全アソシエイト(社員)へのライセンス付与に加え、旗振り役としてのAI推進本部の発足も行った。さらに、先を見通す力を進化させるためにもFP&A(Financial Planning & Analysis)機能を強化。事業ごとに分散していた見通しプロセスを見直し、システムの導入を行った。チームの努力のかいもあり、全社の見込み数値を集約する仕組みを半年で構築し、精度向上に注力している。持続的成長とグローバル競争力の強化という将来に向けた布石として、欧州でのCDMO拠点確保のための工場買収、円貨での史上最大規模となるM&A案件も実施。その資金調達含めて今後の財務オペレーションの多様化を考え、海外格付機関からのレーティング取得などの準備も整えた。
テルモ株式会社
経営役員 チーフファイナンシャルオフィサー(CFO)兼 チーフインフォメーションオフィサー(CIO)
萩本仁氏
1996年にソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社)入社。東京本社・米国・欧州にて経営管理、組織変革、新規ネットワーク事業の立上、経営情報システムの展開などに従事。ゲーム事業CFO兼コーポレートITシステム担当役員を経て、米国グループ本社で全社DX・IT戦略の推進。2022年にテルモ株式会社に CAFO 室長として入社。2024年、経営役員CFO 兼CIO 代行に就任。2025年より現職。
2026年、これまでの成果を最大限に発揮し、GS26の達成を目指しつつ、既に売上比率の約8割が日本外で得ているテルモにとって、もはや全社のグローバル化を推し進めることは必須である。より一層海外含めた全テルモのスキル、タレントを生かせるような体制の構築を進める。海外展開を行っている日本企業、という位置付けから、われわれの数倍の企業規模を誇る海外の医療機器メーカーと伍するGlobal Playerの仲間入りを意識し、気を引き締めて臨みたいと考えている。
2026年はテクノロジーと実務知の融合を加速する(EY新日本 松村洋季氏)
2025年は、生成AIやデジタル技術の進化が監査の現場に新しい可能性をもたらす一方で、AI企業による巨額の架空売上や、伝統的製造業における不適切会計など、社会を揺るがす事案が相次ぎました。こうした出来事が、品質を守り抜くという私たちの使命を改めて強く意識させる一年となりました。監査法人に寄せられる期待は、もはや財務情報の保証にとどまりません。サステナビリティ情報の信頼性確保、開示対応など、企業の透明性を支える領域へと広がり続けています。こうした変化、社会の期待に応えるため、私たちは効率化だけでなく、監査の信頼性を高めるためのデジタル活用を着実に進め、データそのものの品質向上、リスクの早期検知、クライアントへのインサイト提供へと取り組みを拡張しています。
EY新日本有限責任監査法人
理事長
松村洋季氏
1992年太田昭和監査法人(現・EY新日本有限責任監査法人)入社。主に大手金融機関の監査およびアドバイザリー業務に従事。2001年~2004年にEY ロンドン駐在。2016年よりEY新日本の経営専務理事 人材開発本部長 兼 EY Japan タレント・リーダーとしてグローバルリーダーの育成など人材育成にも注力。金融事業部長 兼 EY Japan 金融サービス・リーダーを経て、2025年7月に理事長に就任。公認会計士。
2026年は、この取り組みをさらに深化させる年です。AIを含むテクノロジーは、監査の補助的な役割から、品質を支える重要な基盤へと進化します。しかし、テクノロジーが導き出した分析結果を踏まえて、経営や社会に対する洞察力を兼ね備えた監査人が、クライアントの発言内容や社会情勢予測も加味しながら判断を行うことに変わりはありません。私たち監査法人はそういった監査や会計士の社会的意義を丁寧に伝え、魅力ある職業としての価値を高める努力を続けます。変化を恐れず、しかし足元を固めながら、信頼される監査を未来へつなげていく──それが私たちの揺るぎない決意です。現場に根差した品質文化を育み、テクノロジーと実務知の融合で、より強い監査を実現していきます。
この記事は参考になりましたか?
- 特集:年末特別インタビュー連載記事一覧
-
- 【特集】CIO/CDO/CTOの6人に聞く、“岐路の一年”で得た手応えと展望──データ活用...
- 【特集】財務・会計のキーパーソン5人に聞く──経済・テック・監査・実務のプロが2026年を...
- 【年末特集】SUBARU、楽天のCIOが語る2025年の目標 JFEのSIRTリーダーが挑...
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア
