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冨永裕子の「エンタープライズIT」アナリシス

顧客マスタデータをクレンジング率「99.7%」で維持するNEC、AIエージェント活用も進む同社の挑戦

NEC独自の「勝ちパターンマスタ」整備、重要となる3要素

 データマネジメントの要と言われるデータ品質。頻繁なメンテナンスが必要となる見込み客のデータを、組織全体できれいな状態のまま維持する努力を続けてきたのがNECだ。「AIの真価は、地道なデータ整備にこそ宿る」と断言する自信の裏側で、どんな努力を続けてきたのか。関係者に訊いた。

なぜ、マスタデータマネジメントがビジネスに重要なのか

(左から)NEC コーポレートITシステム部門 経営システム統括部

セールスDX推進グループ ディレクター 近藤吉毅氏

同社 セールスDX推進グループ プロフェッショナル 原田隆洋氏

 企業内の基幹データを全社的に統一的かつ一貫性のある形で管理し、ビジネスシステム間で相互に利用できるようにする取り組みを、マスタデータマネジメント(MDM:Master Data Management)と呼ぶ。マスタデータの中には、顧客マスタ、商品マスタ、従業員マスタ、設備マスタなど様々なものがある。MDMに組織的に取り組むことで、企業は常に正確かつ信頼できるデータを利用できるのだ。そのために欠かせないのが、重複の排除、標準化、データクレンジングなどのデータ品質を維持するプロセスだ。

 問題は、それを「誰がやるか」である。数あるマスタの中でも、「名寄せ」と呼ばれる顧客マスタの標準化の負担は特に大きい。もっと言えば、NECのように企業を相手とするビジネスをしている場合、一般消費者を相手とするビジネスだけの企業と比べてその難易度は高くなる。

 というのも、BtoBビジネスの場合は顧客企業をBtoCビジネスと同様に個人として扱うだけでなく、企業の組織構造に合わせて、その人の役職や部署まで正確に把握する必要があるのだ。たとえば、日本の大企業には半期に一度の定期人事異動があり、そのタイミングで部署名も変わる。意思決定権限を持つキーパーソンの昇進を把握しておかなくてはならない。異動、退職でいなくなる場合は、後任が誰かを把握し、速やかに更新しなくてはならない。また、そう頻繁にあるわけではないが、社名の変更、企業の買収統合の場合も更新が必要になる。

 データ品質に無頓着な場合、どんなリスクがあるかを尋ねたところ、「Gabage in, Gabage out(ゴミを入れても、ゴミしか出てこない)」になってしまうと原田隆洋氏は指摘。「(データ基盤のような)器が整っていても、顧客マスタの中身が汚れていたら、顧客情報を正しく理解できない。商材マスタが汚れていたら、顧客に適切なタイミングで適切な商材を提案できない。コストがかかるが、それでもやり続けることで、社内に価値を届けることができる」と語った。

次のページ
顧客マスタデータをクレンジング率99.7%で維持、高水準の保ち方

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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)

 IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...

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