顧客マスタデータをクレンジング率「99.7%」で維持するNEC、AIエージェント活用も進む同社の挑戦
NEC独自の「勝ちパターンマスタ」整備、重要となる3要素
顧客マスタデータをクレンジング率99.7%で維持、高水準の保ち方
先ほどの話は経営視点でのMDMの意義だが、現場視点でも今後のAI活用に支障をきたすため、汚れたデータを放置しているわけにはいかない。インターネット上のデータだけをクローリングする一般的な生成AIツールを利用しても、一般的な回答が得られはすれど業務に役立つ情報は得られない。現在、営業のようなフロント業務からAI活用が進んでいるが「AIを使ってみたが、あまり役に立たない」と思われてしまえば、全社的な活用が拒まれる可能性がある。
セールスフォース・ジャパンが主催した「Salesforce全国活用チャンピオン大会(SFUG CUP)」のファイナリストとして選ばれた原田氏は、2025年9月の発表会で「AIの真価は、地道なデータ整備にこそ宿る」と強調していた。NECでは多くのマスタデータの整備に取り組んでいるが、発表会で同氏が紹介していたのは、「1. 顧客マスタ」「2. 商材マスタ」「3. 勝ちパターンマスタ」の3つである。
まず顧客マスタは、“重複ゼロ”を目指して6年かけて整備し、Salesforce内の38.8万件のデータをクレンジング率99.7%で維持している。近藤吉毅氏によれば、この顧客マスタは取引がある既存顧客と新規顧客の双方が含まれており、基幹システムで利用する得意先マスタと連動されている。(図1)。原田氏が「やりすぎではないか?」とも語る99.7%という水準を維持するために、NECでは「スーパー管理者権限」を持つ、ごく限られた担当者だけが月2回の頻度でデータを更新している。同時に名刺管理ツールに読み込ませたデータも更新し、見込み客の所属企業と担当者のデータ鮮度も維持しているとのことだ。
クレンジング率99.7%を誇るSalesforce内の顧客マスタ(図1)
出典:NEC(クリックすると拡大します)
次の商材マスタに関しても、発表会で紹介したのは「BluStellar(ブルーステラ)」ブランドに関連する商材を対象としたマスタである。NECは、2024年5月にBluStellarを発表して以来、企業のDXを支援するビジネスを進めている。この商材マスタは、顧客のビジネス課題の解決に役立つ商材を営業が提案しやすくするためのもので、「シナリオ」「オファリング」「プロダクト&サービス」の3段階で階層化して整理したものだ。
近藤氏によれば、「プロダクト&サービスは商材の最小単位、オファリングは複数の商材を束ねたソリューション、シナリオは顧客の経営課題に対応する複数のソリューションを束ねた最上位概念になる。もちろん、実際に販売する商材はシナリオ通りではなく、顧客との対話の中で決定される」という。2025年7月時点で、169件のアセットが登録されている。月に一度のメンテナンスで新しいシナリオを追加しているが、一部には期待した反応が得られず、削除する場合もあるそうだ。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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