IBMが「TechXchange」で示したハイブリッドクラウド&AI戦略──Anthropic連携と4層テクノロジー基盤
IBM TechXchange 2025/TechXchange Summit JAPAN 2025 レポート
企業ITを“変化に強く”する4層のテクノロジー基盤
米国で発表されたProject BobやGroq連携は、IBMがここ数年進めてきたハイブリッドクラウド&AIの全体戦略の一部である。これらが今後どこに位置付けられ、全体としてどのような戦略を形成していくのか。その全体像が示されたのが、12月3日に東京で開催された「TechXchange Summit JAPAN 2025」の基調講演だった。
日本IBM代表取締役社長の山口明夫氏は、現代企業が直面する2つの課題として「スピードの非対称性」と「IT環境の複雑化」を挙げた。AIの進化速度に対し、業務プロセスの変革が追いつかないこと。オンプレミス、クラウド、SaaS、メインフレームが混在するヘテロジニアス(異種混合)環境で、一貫した運用・統制が難しくなると言う。
こうした課題に対して、IBMが提供している製品・ソリューション群は、以下の4層に整理される。
第1層:トランザクション・プロセッシング・プラットフォーム
最下層はIBM Zを中核とする業務処理基盤である。99.999999%の高可用性を持ち、ミッションクリティカルな業務を支える。日本IBMの竹内俊介氏は「すべての変革は安定稼働から始まる」と述べ、止められない業務を守ることが変化を積み上げる土台になるとした。
第2層:ハイブリッドクラウドプラットフォーム
2層目はRed Hat OpenShiftを中核とする。オンプレミス、クラウド、エッジが混在する環境で稼働場所の違いを吸収し、アプリケーション開発に集中できる環境を整える狙いがある。
第3層:データプラットフォーム
3層目はwatsonxを中核とする。構造化・非構造化データをAIが利用できる形に整え、信頼性や説明責任といったガバナンスも含めて提供する。単にAIを導入するだけでなく、信頼できる形で活用するための基盤として位置付けられている。
第4層:オートメーションプラットフォーム
最上位はwatsonx OrchestrateやInstanaで構成される自動化の層だ。IT運用の自動化、ビジネスプロセスの最適化、財務可視化の向上など、ITと業務を横断した効率化を担う。AnthropicやGroqとの提携で得た技術は、この第4層に組み込まれる。
この4層を貫く設計思想をIBMは「ハイブリッド・バイ・デザイン」と定義する。変化に対応できる企業構造を、あらかじめ意図を持って設計するという考え方である。
これらの4つの層によって生成AIのPoCが進むほど、「本番環境でどう実装するのか」という問いが立ち上がる。そこで論点になるのはAI単体ではなく、既存システム連携、運用体制、評価・統制(ガバナンス)を含む全体アーキテクチャである。4層は、その論点を落とさずに議論するためのインデックスとして提示された。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
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