「攻めの財務」へ転換 “データドリブンな提案”が現場を動かす
FP&AI部による変革は、MIXIが運営する競輪・オートレースの投票サービス「TIPSTAR」においても、具体的な成果につながっている。「事業部が重視しているKPIが好調に推移していることを確認した上で、『このKPIが良い状態なので、もっと顧客獲得への投資を行えばさらに伸びる。予算を上方修正しませんか』と提案できた」と島村氏。これまでのFP&Aは、予算を超過しないようにブレーキを踏む役割が主だったが、AI活用を見据えたデータドリブンな環境が整ったことで、たしかな根拠をもって適切に“アクセルを踏む”提案ができた好例だとする。
このように業務内容が集計・作成から「提案・折衝」へと変化する中で、FP&A人材に求められるスキルセットも大きく変わりつつある。島村氏は「データを見るだけでなく、人間としてのコミュニケーション能力、折衝能力が問われる」として、AI時代においては分析力だけでは価値が出せなくなると指摘した。適切なデータさえあれば、集計・分析はAIのほうが得意だ。
「事業について自分たちより何百倍も詳しい事業部長に対して、財務という物差しで見たときに『こういう打ち手があるのではないか』と提案するのが、FP&Aのあるべき姿だ」(島村氏)
島村氏が見据えるFP&AI部のゴールの一つは、多くの企業が膨大な労力を費やしている「予算」や「中期経営計画」の策定プロセスを変革することだ。通常、予算策定においては実績を調べ、コンセプトを練り直すといった作業が発生するが、「既に予算をAIが策定している」世界を目指している。「来期はこういう数字になる、という予測をAIが出せるようになる。人間はそれを確認して判断を下すようになっていくだろう」と島村氏。たとえば、「3年後に営業利益が300億円になる」という予測に基づいてAIが毎月分析して提示してくれれば、「利益が出るならもっと投資できる」といった中長期目線の議論を日常的に行えるようになる。これにより予算策定における議論を前倒し、予算策定の期間中にかかっていた業務負荷を大幅に軽減することも可能だ。
島村氏は「FP&Aにとって予算や中期経営計画の策定は、特定期間に負荷が偏りやすいという構造的な課題がある。プロセスにAIを取り入れることで、効率的に高い付加価値を出せる状態にしていきたい」と述べる。その上でCFO部門として、意思決定に関わるコストを合理的に下げることを目指す。経営会議のために現場が疲弊する状況をなくし、AIによって迅速に意思決定が行える環境を整えることで、本来費やすべき「考えるための時間」を増やしていく。
AIは単なる効率化のツールではなく、経営管理のあり方そのものをシフトさせるドライバーとなってきた。AI時代の財務・会計業務がいかにして企業価値の向上に寄与できるか、MIXIの取り組みは一つの羅針盤となるだろう。

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岡本 拓也(編集部)(オカモト タクヤ)
1993年福岡県生まれ。京都外国語大学イタリア語学科卒業。ニュースサイトの編集、システム開発、ライターなどを経験し、2020年株式会社翔泳社に入社。ITリーダー向け専門メディア『EnterpriseZine』の編集・企画・運営に携わる。2023年4月、EnterpriseZine編集長就任。
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