米国で好調の「Mattermost」が日本上陸 リスク高の状況に勝機
ゲーム会社の内製ツールとして始まったMattermostだが、オープンソースとして公開すると、予想外の反響があった。セキュリティ意識の高いエンタープライズ企業や政府機関から、問い合わせが殺到したのだ。
「とある大手エンタープライズの顧客が、導入前に徹底的なペネトレーションテスト(侵入テスト)を行い、7つのセキュリティ上の欠陥を見つけて、われわれに突きつけたのです」(ティエン氏)
このセキュリティホールの修正は、スタートアップ企業にとってはかなり厳しい要求だった。しかし、「指摘を受けてから、わずか10日ですべての修正を完了させました。顧客はそのスピードとセキュリティへの姿勢に感心し、採用を決めてくれました。この経験がミッションクリティカルな領域へと舵を切る転機となりました」とティエン氏は振り返る。
その後も顧客からの要望に応える形で、高度なセキュリティ機能、監査ログ、権限管理などを順次実装。それにより、単なるチャットツールから国家の安全保障、電力・金融といった重要インフラを支えるツールへと進化したのだ。
そして2026年を迎えた現在、同社は日本市場へと本格参入しようとしている。この背景には、昨今の地政学的な緊張の高まりと“日本独自のニーズ”がある。「世界の分断が進む中、多くの国が『ソブリン(主権)』の重要性に気づいています。特に日本は防衛力の強化、経済安全保障の観点から他国のベンダーや法律の影響を受けずに、自国でデータを完全に管理できる環境を求めています」とティエン氏。そうした状況下、Mattermostが求められている理由を「Poly-crisis(複合危機)」というキーワードを用いて説明する。
「現代の危機は連鎖します。たとえば大地震で通信インフラが寸断され、その混乱の隙を突いてサイバー攻撃が仕掛けられる。こうした『複合的な危機(ポリクライシス)』に対し、外部接続が前提のクラウドサービスはあまりにも無力です」(ティエン氏)
日本は災害大国であり、かつサイバー攻撃の標的にもなりやすい。有事の際にインターネットが使えない、あるいは海外のクラウドサービスが遮断されるリスクは容易に予測できる。複合的な危機が訪れている極限状態でも、現場のオペレーションを維持し、復旧への指揮命令系統を確保する。そのためにはローカルで自律的に稼働する、Mattermostのようなコミュニケーション基盤が不可欠だろう。
事実、日本国内でも既にセキュリティ意識の高い企業やOSSコミュニティでMattermostの利用が広がっている。野村総合研究所(NRI)では、基本的に社内のコミュニケーションツールとしてMattermostを利用しており、社外用のメールと使い分けているという。今回のティエン氏の来日は、日本におけるパートナーシップを強化し、日本の政府機関や重要インフラ企業のために、より手厚い支援体制を構築する準備でもあった。
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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