規制と変革のジレンマに陥った欧州、珍しい国際戦略を打ち出した中国……市川類氏が世界のAI政策を総括
2025年の動向を踏まえ、2026年に注目しておくべき政策動向とは?
“規制”と“イノベーション”のジレンマに陥った欧州
米国と同様に、欧州も2025年は競争力強化に転じた。米国の政権交代で、良好だった関係を見直す必要が出てきたことも、その動きを加速させた。ロシア産エネルギーへの依存、中国のレアアース、半導体、ハイテクへの依存も同様に見直しの対象になった。
一方、仏Mistral AIや独Aleph Alphaのように、将来を期待されるAIスタートアップも登場し、その成長を阻害することは許されなくなった。世界に先駆けて、リスクベースアプローチを採用した包括的なAI法を整備したまではよかったが、全面適用に向けての準備にジレンマを抱えることになってしまった。
そんな中、2024年12月に「第2次フォン・デア・ライエン体制」が発足する。これを機に、競争力強化に政策の方向性を転換することになった。その流れで、EU委員会はまず2025年1月に「競争力コンパス(Competitiveness Compass)」を発表する。これは、2024年9月のドラギレポートを基に、2029年までのEUにおける最優先政策の枠組みを整理した文書。「イノベーション」「脱炭素化」「安全性・レジリエンス」の3分野を柱に据えている。研究開発、デジタル化、スタートアップ支援を奨励すべく、AI関連の政策が多く盛り込まれた。
さらに、2025年4月には「AI大陸行動計画」を発表する。「この計画のポイントは、『EUはAIの世界的なリーダーになる』と明確に打ち出したことだ」と市川氏。同計画では、「計算インフラ構築」「データ連合戦略の策定」「AI活用の加速」「人材強化」を進めていくとした。
しかし、いまさらAI法を緩和するとは言えない。そこで「規制(手続き)の簡素化」という苦肉の策で対応することになった。また、2025年10月にはAI大陸行動計画を一歩進め、「AI活用(Apply AI)戦略」も発表。この戦略には、10の主要産業分野と公共部門を対象に、AI導入を促す支援策が盛り込まれている。
AI法の適用スケジュールでは、透明性リスクのあるAIシステムに関する規制、および高リスク(バイオメトリクス、重要インフラ、教育、雇用など)AIシステムに関する規制の施行を2026年8月に控える。市川氏は「準備に向けて、透明性リスクのガイドライン策定は順調に進んでいるが、高リスクの法のガイドライン策定は、当初の予定よりも遅らせる方針が明らかになった」と解説した。
具体的には、2025年11月に提案された「デジタル・オムニバス法案」で同規制の適用の延期が明記されているが、その理由は高リスクAIシステムに関する規制に対する産業界の反発が強く、ガイドライン策定の準備がほとんど進んでいないためとしている。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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