ITインフラ環境の複雑化、高度化するサイバー攻撃……Synologyは市場の要請にどう応える
現在、エンタープライズ企業のITインフラを取り巻く環境は、かつてないほどの激変期にある。特定ベンダーへの依存によるビジネスリスクの顕在化、円安をはじめとするマクロ経済の影響、そしてサイバー脅威の高度化など、さまざまな要因が複雑に絡み合っている状況だ。
まず、IT部門の担当者を悩ませているのは、クラウドサービスや主要ソフトウェアのライセンス体系の変更にともなうコストの高騰だ。特にVMwareのライセンスモデル変更では、多くの企業が運用コストの急激な上昇という課題に直面し、「脱VMware」に向けた検討を余儀なくされている。
Synologyのプロダクトマネージャーであるコーディ・ホール(Cody Hall)氏は、この現状について次のように指摘した。
「私はIT業界に12年在籍しているが、VMwareのライセンス変更にともなう仮想化市場のこれほどの分断は見たことがない。かつてないほど多くの組織が自社のITスタックの構成を見直し、異なるハイパーバイザーへの移行を試し、あるいは完全にプラットフォームを切り替えようとしている」(ホール氏)
さらに、サイバーセキュリティの観点からは、ランサムウェアの進化が予測不可能な領域に突入しているという。AIの普及により、脆弱性をねらった脅威は増加の一途をたどっており、もはやファイアウォールなどの従来的な対策だけでは被害を防ぐことは難しい。
「Claude Mythosのようなフロンティアモデルは、人間が長年見過ごしてきたゼロデイ脆弱性を特定できるなど、新たな脅威をもたらしている。悪意のある攻撃者も同様のモデルを利用しており、企業には増大する脅威に適応できるだけの体制が必要だ」とホール氏。さらには円安の影響により、海外製のハイエンドストレージやバックアップアプライアンスの導入コストが膨れ上がる中、限られたIT予算でミッションクリティカルな性能を維持しつつ、未知のAI脅威にも対抗しなければならない。
そこで、Synologyが拡充するのは「高可用性」と「強固なデータ保護」を兼ね備えながらも、競合他社よりも価格優位性のあるラインアップだ。今回のCOMPUTEXの展示ブースでも、これらの要件をクリアするための製品群が並べられた。
その象徴ともいえる新製品が、オールフラッシュNVMeストレージ「PAS7700」である。4Uのシャーシに48基のNVMe SSDベイを備え、最大7台の拡張ユニットを利用することで1.65PBまで容量を拡張できるスケーラビリティを誇るフラグシップ機だ。最大の特徴は、(オールフラッシュNVMeで)同社初となるデュアルコントローラーによる「アクティブ・アクティブ」アーキテクチャの採用だろう。仮に一方のコントローラーに障害が発生した場合でも、5〜10秒単位でフェイルオーバーし、ダウンタイムを最小化する設計となっている。最大200万IOPS、最大30GB/sのスループットなど、同社製品群のプライマリストレージとして位置づけられる製品となった。
展示ブースの担当者によれば、競合他社と比較しても台湾国内のデータでは、導入コストを30%~50%程度に抑えられるケースが多いという。
また、データ保護の領域では、アプライアンス型のバックアップ専用製品「ActiveProtect」の最新版「ActiveProtect Manager 2.0」が発表された。同製品は、ソフトウェアとハードウェアが一体となっており、約15分という短時間で初期設定を完了できる。この1台だけでイミュータブルバックアップやエアギャップ環境の構築など、ランサムウェア対策として推奨される「3-2-1-1-0ルール」を満たすことができるという。
さらに、2.0となったActiveProtectでは、ユーザー側がAIを活用できる新機能も追加された。ホール氏は、「バックアップを収集する際、AIがユーザーの通常時の行動パターンやデータ変更率などを継続的に学習する。もし、異常な大量削除や暗号化の兆候が見られた場合、即座に管理者に警告を発報可能だ。また、万が一ランサムウェアの被害に遭い、データをリストアする際には、復元前にサードパーティ製のアンチウイルスソフトと連携したマルウェアスキャンを実行し、クリーンなデータのみを本番環境に戻すことができる」と説明する。
また、企業の物理資産を守るための監視ソリューションにおいても「エッジAI」の活用が進んでいる。スマート監視カメラ「BC510」および「TC510」は、カメラ単体で人物や車両などの侵入検知を行うためのAI機能を搭載することで、サーバー負荷を軽減しながらもリアルタイムな応答性を実現。さらに、今後のアップデートで実装予定の「自然言語検索」機能では、「白い車」といった直感的なフレーズを入力するだけで、過去の映像から該当シーンを瞬時に抽出できるようになる。
実際に、これらの製品群は多くのグローバル企業で導入されている。たとえば、トヨタ自動車のベトナム法人では、Synologyの製品群を活用することでデータ量とコストを約75%削減しているという。
また、Synologyは先述したVMwareのライセンス問題への対応として、Nutanix AHVやProxmox VEへのネイティブサポートをActiveProtect Manager 2.0で予定している。「Auto Backup」と呼ばれるデータライフサイクル管理機能によって、特定のハイパーバイザーやリソースに対してあらかじめバックアッププランを割り当てておくことで、新しいVMがデプロイされた瞬間に自動的にデータを保護するという。つまり、VMwareからNutanix AHVへと移行する際、管理者が手動でバックアップ設定を再構築することなく、移行先の環境でシームレスにデータ保護が継続される。
もちろん、こうした取り組みの一方、SSD/HDDを含めてベンダーロックインとなる要素も見受けられるため、互換性リストは必ずチェックしておきたい。とはいえ、エンタープライズ企業におけるメリットを考えたときには、安定性とセキュリティを一定担保しながらも安価に導入できる点は優位性になり得るだろう。
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岡本 拓也(編集部)(オカモト タクヤ)
1993年福岡県生まれ。京都外国語大学イタリア語学科卒業。ニュースサイトの編集、システム開発、ライターなどを経験し、2020年株式会社翔泳社に入社。ITリーダー向け専門メディア『EnterpriseZine』の編集・企画・運営に携わる。2023年4月、EnterpriseZine編集長就任。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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