導入の機運が高まるデジタル教科書
デジタル教科書の導入へ向けた機運が高まっている。総務省が昨年12月に「ICT維新ビジョン」で取り上げたのを皮切りに、文部科学省も「学校教育の情報化に関する懇談会」を4月に立ち上げ、ネット上の「熟議カケアイ」でも並行してデジタル教科書・教材について検討、7月28日に「教育の情報化ビジョン骨子(案)」を審議し、来年度からデジタル教科書を使った授業の実証実験を行う方針を決めた。民間でも呼応するように産学協同のコンソーシアム「デジタル教科書教材協議会(DiTT)」が立ち上がり、7月27日に設立シンポジウムが行われた。
デジタル教科書といってもイメージは様々だ。電子書籍が流行る中、教科書をそのまま電子化したものと思われがちだが必ずしもそうではない。担当する鈴木寛文部科学副大臣は、著書『コンクリートから子どもたちへ』で下記のように言及している。
教育力の底上げということで言うと、「教科書や教材のデジタル化」と「生徒一人ひとりの新たな情報端末の普及」ということがあり、これをぜひやりたいと思っています。この効用は何かというと、まず教材の分量を増やせること、動画やワークシートを盛り込めることにあります。反復学習もできるし、それこそ個別の学習履歴を管理できるし、学力到達度も随時把握できます。
『コンクリートから子どもたちへ』(寺脇研・鈴木 寛、講談社、p.173)
教科書をそのまま電子化するのではなく、デジタル機器の特性を活かして動画や双方向コンテンツを盛り込み、関心の赴くままに知識を深められるようにし、ドリルによる自習や学習履歴を管理して教師による学力到達度の把握も支援しようという意欲的な構想だ。
例えば理科では、学校の実験室でできないような実験をコンピュータ上でバーチャルに試すこともできる。社会科では、地図情報サービスを使って周囲を探索し、興味に応じてこれまでよりも深堀して学び、物事を多面的に捉える機会をつくれる。英語では、ネイティブの発音で文章を読み上げ、自分が英単語を正しく発音できるようになるまで音声認識エンジンを相手に反復練習ができる。
先生は、授業の準備や個々の生徒に対するケアだけでなく、プリントの作成やテストの採点、教務に関係した書類の作成など教え子と向かい合わない業務は多岐にわたる。デジタル教科書と校務情報システムを連携させて間接業務をITで自動化できれば、先生は事務に忙殺されず生徒を向かい合う時間や、教授法の研究やじっくり考える時間を増やせるだろう。(次ページへ続く)