労基法大改正にともなうITシステム刷新の投資計画はいつから始めればよい?CIOらが見るべき2観点とは
第2回:ヤマトHD、クレディセゾンの先行事例から投資すべき内容のヒントを探る
労基法改正にともない、IT基盤を刷新すべき場所2選
影響の出方は、業種そのものよりも、その会社の中で業務がどう組み立てられているかによって変わります。なお、本ページで代表的な業務の組み立て方の類型だと思われる内容の概要を解説してから、次ページで先行事例と言ってもよい企業事例を人的資本情報の開示事例から引用して説明します。
①シフトの設計・調整が必要な業務:店舗業態・製造現場など
まず、決まった時間帯に誰がどのように働くかといったシフト設計が必要な仕事の勤怠管理システムは、変革が必要です。具体的には、物流の配送と仕分け、小売店舗、建設現場、医療介護、設備保守の当番などの仕事群です。
上記に関しては、連続勤務の制限や勤務間インターバルが入った場合、従来組めていたシフトが組めなくなる可能性があります。また、個別の規制の影響のみではなく、自律多様な働き方の進展によって、人員配置が将来的にさらに複雑化する可能性も読み込むべきです。中でも各論として影響が出やすいのは、繁忙期、深夜と早朝がつながる勤務に制約が出ること、他店舗の応援といった臨時対応など、“非定常業務への対応”でしょう。
この時に問題となるのは、働いた実績が管理部門で集計されるタイミングです。現場がシフトを組み、本社が実績を翌月に集計している会社では、連続勤務や超過勤務の実態が翌月にならないとわかりません。無理なシフトを組まざるをえなくなることで、法的リスクに加えて、健康課題や予定外の増員などへの対応が必要になる場合も多くなり、勤務実績をリアルタイムに確認できる基盤が必要となります。つまり、働き方の設計・把握の仕組みを改善する必要があるのです。こうした業務についての先行事例として、ヤマトホールディングスの事例を後述します。
②働いた時間と成果が比例しにくい業務:企画・開発・営業など
企画、開発、営業、コンサルティング、研究。これらは、同じ成果を出すのにかかる時間が、個人の能力や時期によって大きく変わる仕事群です。
こういった仕事では、改正のうち“柔軟化”の側面が効いてきます。裁量労働制や、テレワークに合わせたフレックスタイム制の柔軟化を採用することが、合理的である可能性が高まります。また、それにともない人材セグメントごとの労働時間制度の複雑化も進むはずです。こうした柔軟化を人的資本経営の文脈で掲げている会社ほど、この要望は事業戦略側から出てくるでしょう。
また、この話を捉える際に前提として押さえておきたいのが、労基法大改正の論点で重視されている「健康確保措置」です。柔軟化の制度は健康確保措置とセットで検討されており、健康管理のための時間が客観的に取れていることが重要になります。そして、業務時間以外に、誰が何にどれだけ取り組み、どんな成果を挙げたのかを把握できていることが求められるようになるでしょう。
裁量を広げた後に何が起こるかを把握できれば、業務改善や事業の進化につなげることができ、労使にも社外にも説明できます。反対に、時間の記録しか手元にない状態では、掲げた方針が基盤整備の段階でストップしかねません。こうした業務についての先行事例として、クレディセゾンの事例を後述します。
どちらの業務群も、システム設定の変更だけでは不十分
今までに見たどちらの課題群も、勤怠システムの設定を変えれば済む問題ではありません。前者ではシフトの作り方そのものに、後者では社員の働き方の何を把握するかという設計に手が入ることになるためです。これは筆者の意見ですが、上記のような課題にも対応できる雇用基盤をもつ企業は多くありません。
もう1つ、投資規模に関わる論点として、「サービス提供に制約が出ないか」は厳格に考えるべきところです。たとえば、翌日配送や時間帯指定を前提に価格が組まれている物流、工期から逆算して要員が張られている建設、24時間の受付を条件に契約している保守など。健康管理の要請や連続勤務の制限、休息時間の確保は、これらの提供条件そのものに関わってきます。そこまで含めれば、投資の規模も、関わる部門もより広がるはずです。
そして、IT投資判断の時期も重要です。2028年4月頃に施行されると考えると、2027年度にシステムの要件定義と調達が入ることになるでしょう。その枠は一般的に2026年度末までに置かれている必要があり、枠を取るために必要な現状の数値化は、今年度中に済ませておかなければいけません。2027年に初めて実態を把握し、そこから投資計画を練るのでは、法令に対応する整備が1年遅れる形となります。
この記事は参考になりましたか?
- 他人事ではない「労基法大改正」 IT部門に課された命題連載記事一覧
-
- 労基法大改正にともなうITシステム刷新の投資計画はいつから始めればよい?CIOらが見るべき...
- タイムリミットはまさに「今」 労基法大改正にともないIT部門が棚卸しすべき4項目と課された...
- この記事の著者
-
松井 勇策(マツイ ユウサク)
産学連携シンクタンク iU組織研究機構 代表理事・社労士。情報経営イノベーション専門職大学 客員教授(人的資本経営・雇用政策)。社労士・公認心理師・AIジェネラリスト。
時代に応じた先進的な雇用環境整備について、雇用関係の制度や実務知識、特に国内法や制度への知見を基本として、人的資本経営の推進・AIやICT関係の...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア
