ZOZOの情シスはCTO下で“開発を速める存在”へ──Claude利用を止めないガードレールの育て方
開発と情シスの指揮を執る瀬尾直利氏が実例で示す、「通した/止めた」の判断軸
生成AIの急速な普及にともない、企業の生産性向上と情報セキュリティ確保のバランスが大きな論題となっている。情報システム部門が制御を強めすぎれば現場の変革が停滞し、逆に対応が遅れればシャドーITの横行を招く。ZOZOで執行役員兼CTOとIT統括本部長を兼任する瀬尾直利氏は、このジレンマに対して「セキュリティと生産性を天秤にかけない」という方針を提示する。同社が実践する“攻め”と“守り”を高いレベルで両立させるIT基盤戦略と具体策について詳述する。
独自指標で活用レベルを可視化。ZOZOの生成AI活用の歩み
2022年11月のChatGPT登場以降、ZOZOは全社的な生成AIインフラの整備を進めてきた。現在ではMicrosoft CopilotやGemini Notebookに加え、全社導入を果たしたChatGPT EnterpriseやClaudeなど多様なチャットツールが社内で運用されている。同社は単一のAIツールに依存せず、現場の要求に応じて複数の優れたモデルを併用するマルチスタンダード方針を採用している。
開発現場でも、2023年5月のGitHub Copilot全社導入を皮切りに、Claude CodeやGemini CLI、Devin、Cursorといった最新のコーディングAIを柔軟に組み込んでいる。エンジニア1人あたり月額200米ドルの予算枠を設定し、枠内であれば複数の開発AIエージェントを自律的に選択して併用できる仕組みを構築した。この運用の結果、導入前と比較して単位時間あたりのGitHub変更行数、Jiraタスク完了数、ドキュメント作成数の生産性を約2倍に向上させる効果をたたき出している。
加えて、全社的なAIリテラシーの底上げにも注力している。全社員がカスタムGPTを作成して利用率を競い合う研修「ZOZO GPTs LEAGUE」を実施するなどして、全社員の97%が日常的にAIを活用する土壌を整えている。さらに、独自の活用指標であるAZARS(All ZOZO AI Readiness Score)を導入し、個人と組織の双方で活用度を可視化。業務改革レベルへの到達を促しているという。個人と組織でそれぞれ4段階のレベルを設定し、ナレッジ共有やAI前提での業務再構築を目指す仕組みだ。
「開発と情シスのKPIを揃える」CTOが実践した組織構造の刷新
AI活用を推進する中で検討しなければならない課題の一つが、開発の生産性向上と情報セキュリティ確保のバランスである。瀬尾氏は、この開発現場と情シスの間に存在する壁の正体について「感情的な対立ではなく、両者の評価軸(KPI)が逆を向いていることにある」と分析する。開発現場のKPIがしばしば開発生産性やリリース速度であるのに対し、情シスはインシデントの最小化と統制の確保をミッションとするため、構造的摩擦が生じやすい。
同社では、情シスが安全確保を優先して導入判断を遅らせた結果、各部署で独自にChatGPT Teamの契約が結ばれるといった事象が発生した。この経験から瀬尾氏は「安全のために止めることがかえって統制を失わせ、セキュリティを脆弱にすることがある」と学んだと語る。
そこで、「止めるのではなく、迅速に環境を整えることこそが最高の守りになる」という考えのもと、同社は2025年にIT統括本部のミッションを「ZOZOグループの業務効率/業務体験を向上させる(セキュリティレベルは保ったまま)」へと再定義した。ミッションの転換にともない、情シス部門の役割も「リスクを抑え込む存在」から「安全な利用環境を迅速に提供する存在」に転換した。
この思想を支える組織体制として、同社はIT統括本部内に2つの専門組織を配置。推進役である「技術戦略部 CTOブロック」が攻めのアクセルを担い、運用/保守を司る「コーポレートエンジニアリング部」が守りの実行部隊として機能する。さらに、瀬尾氏自身がCTOとIT統括本部長を兼任することで、攻めと守りの意思決定を一元化し、判断の遅延を防ぐ体制を整えている。
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