クラウドコンピューティングという言葉自体は具体的な何かを指し示すものではない。インターネット上(クラウド)にあるサービスを利用者が意識することなくPCや携帯電話、携帯端末等のデバイスから使える環境の抽象的な総称である。
クラウドコンピューティングには多くのメリットがある一方で、デメリット、リスクがないわけではない。メリットばかりに目をむけていると、リスクが顕在化したときの対応ができない。
クラウドコンピューティングの詳細については数ある書籍、Webサイト等に譲るとして、今回はクラウドコンピューティングとリスクマネジメントとの関係およびグローバルな活動を展開するNPO団体クラウドセキュリティアライアンス(以下、CSA)としてのリスクマネジメントに対する取り組みを紹介したい。
なお、CSAについては28ページのコラムを参照されたい。
クラウドコンピューティングのメリットとデメリット
クラウドコンピューティングのメリットとしては次のような要素が挙げられる。
- 多くのサービスがそれらを自前で実現した場合に比べて低コスト・低難易度で利用できる。
- 新たなシステムを構築するまでの時間を削減できる。
- システムの運用・管理の煩わしさから解放される。
しかし、「低コスト・低難易度での利用が容易になる」というメリットは同時に、
- ユーザ部門が情報システム部門などの責任部署の了解を得ず、勝手にSaaSなどのクラウドサービスを利用してしまう。
- ユーザ部門がPaaSを利用して、勝手にシステムを構築してしまう。
というような事例につながる可能性があり、諸刃の剣である。
また、クラウドコンピューティングのデメリットとしては次の2点があげられることが多い。
- データを外に置くことになり、情報損失・漏洩のおそれがある。
- サービスの可用性が確保できない
実際にクラウドサービスが停止し、情報損失した事例がある。
2009年10月にT-Mobile USAが米国で販売する多機能携帯電話「Sidekick」の開発、製造およびユーザデータ共有サービスを手がける米Microsoft傘下のDangerが、サーバの障害が原因で、ユーザが保存していた連絡先情報、カレンダの内容、ToDoリスト、画像などのデータをほとんど消失したと発表した。Dangerは、「サーバにあったデータの復旧見込みはきわめて低い」という見解を発表している。
たしかに大手のクラウドサービス企業が提供しているからといって自社外にデータを置くことによる情報損失・漏洩のおそれはあるし、100%完全に止まることなく稼動する保証もない。しかしそれは自前のシステムであってもクラウドサービスであっても同じである。
先の事例の場合、クラウドサービス企業がサーバ内のデータのバックアップを定期的に取っていれば、データを復旧することはできた。しかし、バックアップを取るかどうかについてはユーザではなく、クラウドサービス提供側の対応の問題である。
このように、クラウドコンピューティングの一番の大きなデメリット、リスクは「サービス、システムに対しての自らの統制を持てなくなってしまう」という点に集約される。
低コスト・低難易度での利用が容易になり、面倒な管理からも解放されるメリットを享受する一方で、雲の向こうのサービスはブラックボックス化してしまい、自らの統制が及ばなくなってしまう。