グローバル化への対応とこれから進めるべきBCP策定
震災を大きなきっかけとしながらも、CIOの役割が大きく変わってきた背景として、真瀬氏は「グローバル化」の影響をあげる。一番顕著なのは、グローバル化によって、戦略・投資・リスク管理の比重が増大していることだ。そして情報システムの領域においてもグローバル化によりアーキテクチャが変わり、プロジェクトが国をまたぎ、運用保守が国外で行われるなど、様々な面で大きな影響を受けている。
ただし、その影響によって役割が変わったのはCIOだけでなく、CFO(Chief Financial Officer)やCOO(Chief Operating Officer)などあらゆる責任者に及ぶという。このCxOのグローバル化を促進するためのシンポジウムが、日本CIO協会が中心となって開催されている。
では、これまでのBCPの策定状況はどのようになっているのだろうか。日本情報システムユーザー協会(JUAS)が震災前に調査によると、BCPの策定状況は全体の65%が策定完了・策定中となっており、システムやデータなどのハード面は全体の8割強が対策済みだったにも関わらず、人などのソフト面での対応は内容別に6割から2割とばらつきがあり、総じて遅れていた。
IBMでも、ハード面より「誰がどうやって動かすのか」というソフト面での対応が不十分だったことを踏まえ、現在は東京で地震が起きた場合、1週間後に大阪で業務を再開できるよう、ハード&ソフトの両面からBCP対策が進行中だという。ハードの冗長化については費用と損失の関係性から最適コストを導き、社員への情報伝達についても迅速性や3つの支援という観点、TwitterなどのSNSの活用などを鑑みながら、施策を進めている。このほか、SaaSのサービス例として日本ユニシスのU-Cloudが紹介された。
真瀬氏は「NECや日立、富士通などもクラウドについては打ち出しており、それらを検討しながら、企業として業界として選択していく必要がある」と語り、「日本ではもっと企業間、業界間の連携が進むべきなのに進んでいない。もっと自社でできる範囲と協力し合う部分を明確にし、積極的に協力し合う姿勢が重要」と苦言を呈した。
世界的に遅れをとる日本、早急なCIOの意識改革を
さらに、真瀬氏は韓国の国家的な情報戦略について紹介した。大統領直轄で民間有識者による国家情報化戦略委員会、省庁保有情報システムの統合や運用を行う政府統合電算センター、物品購買や工事の契約を一括で行う調達庁など、一元管理が進みつつあるという。さらに民間企業のCIOはグループ会社に専門のSI企業を設けて、自らの情報戦略立案から運営までを担わせている。こうした取り組みが功を奏し、2010年には国連の電子政府ランキングで1位を獲得している。一方で日本は19位だという。他にも仁川国際空港や病院などの優れた情報統制例が紹介された。
日本企業の凋落ぶりに対し、今後日本のCIOが果たす役割とは何か。真瀬氏は、企業やSIベンダー、業界、自治体、法整備の現場などと柔軟に連携し、強い意志とリーダーシップで社会環境づくりを行っていくことが不可欠だという。さらにそこにスピードも必要だ。真瀬氏は「これからのCIOには、企業の『Innovation』だけでなく、BCPを力強く推し進めていく『Leader』や他組織との協業を柔軟に行っていく『Partnership』も重要な役割になる。従来以上に幅広い役割を担うべきCIOがより効率的に力強く動くために権限譲渡も重要な要項となるだろう」と結んだ。