WebSAMはクラウド環境で必要とされるシステムのライフサイクル管理が可能
NECのWebSAMは、メインフレームの運用管理ツールを起源に、オープン系システム、なかでもミッションクリティカルシステムに対して優れた機能を提供する実績あるシステム運用管理ツールだ。現在は WebSAM V8まで進化し、従来の企業内システムに加え、クラウド指向データセンターまで管理対象を拡張している。
「WebSAMの大きな特長の1つが、WebSAMフレームワークの存在です」
NEC 第二ITソフトウェア事業部 運用管理グループ シニアマネージャーの上坂利文氏は、「WebSAMは1つのフレームワークの上にさまざまな機能をプラグインするアーキテクチャを持っており、これにより監視画面も統一でき、ユーザーインターフェイスも共通化され、使い勝手のいいシステム管理環境を提供できる」と語る。さらに、各種機能のインストールも、ライセンス購入状況に合わせ該当するチェックボックスにチェックするだけという、至ってシンプルなものとのこと。新たな機能追加も容易に実現でき、柔軟性と拡張性に優れたアーキテクチャとなっている。ユーザーは、まずはWebSAMのフレームワークを導入し、必要な機能だけを選択するスモールスタートが可能で、その後、順次必要な機能をプラグインで追加し、最終的にシステム全体の統合管理に発展させられる。
さらにWebSAM V8では、クラウド環境への対応するための製品の強化や新たな製品の開発(WebSAM Cloud Manager, WebSAM vDC Automation)も行われ、クラウド環境を意識した製品構成となっているという。そこでは新たに、IaaS(Infrastructure as a Service)を下支えするクラウド管理ツール機能が提供される。その1つがサービスポータルで、IaaSサービス定義や契約を管理し、利用者からの要求に応じて適切に仮想化リソースを供給する。
「単に管理ツールを提供するだけでなく、NECの検証ラボにIaaS環境を構築し、サービスフローを実際に動かした上で提供する体制も整っています」(上坂氏)。
その際には、仮想化ハイパーバイザーやOSだけでなく、その上で稼動するOracle Databaseやアプリケーションサーバーなどのミドルウェアのプロビジョニングについても、WebSAMで管理できるようになっており、システム全体のサービスレベルの向上が図られているとのことだ。
NECとOracleは開発レベルで深い連携を実施
IaaSのなかにOracle製品を位置づけ、WebSAMで一元的に管理するだけでなく、NECとOracleはより深い部分で技術的な協業を行っている。
「NECと米国オラクル、日本オラクルの3社は、製品開発レベルで技術協業を行っています」―NEC Corporation of Americaのマネージャー 正木宏和氏は、実際に米国オラクルの開発部門に席を置き、製品の仕様決めの段階から共同作業を行っているエンジニアの1人だ。
NECは、すでに20年以上にわたりOracle製品の販売、サポートを実施している。また、直近ではOracle Awardにおいて最上位のAwardである「Partner of the Year」を2年連続で受賞するなど、歴史・実績共にまさにNo.1パートナーと呼ぶべき地位を確立している。そういった長期にわたるパートナーシップのなかで、”NEC-Oracle Strategic Technology Alliance (STA)”という取り組みを発足し、双方の製品を連携させることはもちろん、より製品開発に近いところから協力し3社で顧客に対し双方の製品を組み合わせて利用する上でのベストプラクティスや新たな価値の高いソリューションの提供を実施しているのだ。
STAにおいてNECは約6年前からOracle Enterprise Managerとの連携協業を行っているが、今回もOracle Enterprise Manager(EM) 12cという新製品が提供されるに際し、STAとして協業活動をいち早く開始した。まずは、Oracleのビジネス開発部門とNECのOracle製品部門で、新製品を活用するにはどう利用すればいいかを検討。同時に、同じシステム管理ツールカテゴリーに属するWebSAMとEMの連携強化について考えた。そして、大規模なOracle Exadata環境において共同での実証実験を実施する。ここではまず、EMとWebSAM Invariant Analyzerという製品連携の検証が行われた。
WebSAM Invariant Analyzerは、NECの北米研究所にて研究されてきた「不変関係(Invariant)の自動分析技術」を応用した、システム性能分析ソフトウェアだ。同研究所の技術を用いると、時系列の事象を表すデータから相関関係を分析し、平常時のデータの振る舞いを自動学習してモデル化できる。この平常時のモデルと照らし合わせて一致しない「いつもと違う」挙動を検知することで、人間の判断などでは簡単には見つけられない異常を自動的に発見できるのだ。この技術を、システムの性能分析に適用しているのが、WebSAM Invariant Analyzerというわけだ。
「従来の閾値設定による障害監視では見つけられなかった性能劣化を、この仕組みで正確に発見できます」(上坂氏)
クラウド環境では、ネットワークやハードウェア、OS、仮想化、データベース、アプリケーションなどさまざまな要素があり、それらから膨大な量の性能データが吐き出される。その性能データを集めて、人が経験に基づいて分析し、判断を下すことは、データ量が膨大かつ複雑すぎて、もはや不可能なのだ。この分析および判断を、時系列の性能データさえあれば自動化できるのが、Invariant Analyzerだ。
今回は、このInvariant Analyzerに、EMから得られるOracleの性能情報を渡し、人による判断では見つけられない異常を発見できるかの検証が行われた。環境は実際にシステムとして運用されているユーザー環境であり、アプリケーションサーバーが21ノード、データベースが16ノード、ストレージが98ノードからなっている。データベースとストレージはOracle Exadataで稼動している。今回の検証ではデータベースおよびストレージからの30,000メトリック(メトリックとは、対象となるデータベースの、動作の判断に使用される測定の単位)の性能データをEMで収集し、それをInvariant Analyzerに渡して分析を行った。
「3日間のサンプルデータを抽出し、360万個の平常時の不変関係のモデルを取得しました。そして、この平常時のモデルに合わない事象として2つの異常を発見することができました」(上坂氏)
これら2つの異常は、EMの閾値監視では見つけられないものであり、Invariant Analyzerの分析機能が、EMで収集した性能データの分析においても有効であることが確認されたのだ。
「米国オラクルのEM開発部門にも、Invariant Analyzerの有効性は認められています」(正木氏)
米国オラクルのSushil Kumar氏(Vice President, Product Strategy and Business Development)は、今回の検証結果について、下記のようにコメントしている。
「Oracle Enterprise Managerは、ITおよびビジネスレベルから、システムとアプリケーションの重大なイベントを検出することで、耐障害性の高いシステムを実現します。WebSAM Invariant Analyzerは、Enterprise Managerと連携し、Enterprise Managerの様々なメトリック値の相関関係の異常を検出することで、対応の困難であったIT負荷やリソース消費の課題を持つ顧客に有益な価値をもたらすと考えられます」
つまり、Invariant Analyzerによる分析技術がEnterprise Managerを補完することで、精度がより向上したシステム分析ソリューションとなりうる、ということだ。
今回の検証では、EMで収集した性能データを手作業でInvariant Analyzerに渡し検証を行っている。上坂氏によれば、「12cでは、Invariant Analyzerとの製品間連携を強化し、自動化されたより高度でリアルタイム性を備えたOracle製品の性能監視を実現していきます」、とのことだ。
そして、開発レベルで深く協業した結果として行ったもう1つの検証が、NECのストレージ製品であるiStorageとEMの連携だ。NECではこの2つを連携させるために、Oracle Enterprise Manager 10gのころからManagement Plug-in for NEC Storageという製品を開発し提供している。今回は、それをEM 12cの拡張フレームワークに対応させ、Oracle Automatic Storage Managementで仮想化した先にあるiStorageの、物理的な状況まで含めEMから管理できることを確認したのだ。仮想化の先の物理的リソースまで管理できることは、運用管理の効率化に大きく寄与することになる。