2012年7月10日、総務省は第7回となる無線LANビジネス研究会において、スマートフォン普及台数の推計を発表した。2015年度末で最大時で9400万台(全体の76%)、最少時で7850万台(全体の63%)とした。現在の日本の就業者数が6297万人であることを考えれば、2015年度末には生産年齢人口の大半はスマートフォンを利用している状態になると考えられる。
スマートフォンの普及は誰の目にも明らかだが、最先端を走るプレイヤー達はすでに「スマートフォンの次の戦略」に向けて動き出している。
ウェアラブル・コンピュータ
2012年7月3日、米アップルがヘッドマウント・ディスプレーの特許を取得した。Googleに至ってはすでに製品が完成しており、「Project Glass」の予約受付を開始している。
スマートデバイス市場を牽引する二社が相次いで投入するヘッドマウント・ディスプレイ。これらは単に「眼鏡」という単一製品で終わることは無い。スマートデバイスを中心としたウェアラブル・コンピューティング構想へと繋がるものであり、スマートデバイス・エコシステムの新たなステージへの第一歩にすぎない。Forrester社の調査によれば今後三年以内にあらゆるIT企業の戦略に重大な影響を及ぼすようになるという。
なぜ、今ウェアラブル・コンピューティングか?
ウェアラブル・コンピューティングとは、「身に着ける」電子機器のことであり、発想自体は30年近い歴史があるが「普及」には至っておらず、活躍の場はSF映画の中であることが多かった。普及しない理由として、入力インターフェースとしてキーボード、映像出力装置としてディスプレイが取り付けられているため機器が大きくなり、重量も重く「身に着ける」ことが苦痛だったことが挙げられる。
だが、近年の技術進化によって従来ウェアラブルコンピューティングの普及を妨げていた技術的課題が解決され、ブレイクスルーの可能性が見えてきた。
・入力インターフェース
モノの傾きを検出するジャイロセンサーや、Appleの音声認識「Siri」といった新しい「ユーザーインターフェース」が実用段階に入った。これにより、キーボードや、マウスといった伝統的なインターフェースを取り付ける必要が無くなった。常に身に着けるウェアラブル・コンピューティングはデザインも重要な要素だが、伝統的なユーザーインターフェースの排除はデザイン面の自由度を向上させた。
・サイズ
コンピュータからキーボードやマウスが取り払われたことで、それらに占める面積が不要となった。小型化が可能になり、眼鏡や時計といった、従来身に着けていた装飾品と同レベルのサイズを実現することが可能になった。
・重量
サイズが小さくなれば当然重量も軽くなる。机に置いて使用するパソコンと違い、身に着けることを前提としたウェアラブル・コンピューティングでは身に着けていて、身体の行動が制限されない「軽さ」であることが重要だ。
CPUやバッテリーの性能が向上してきたことは言うまでもないが、これら3つの重要な技術的課題が解決しつつあることで、ウェアラブル・コンピューティングが新たな段階へ移行している。すでに先見性のある企業からいくつかのウェアラブルコンピュータがリリースされているが、デザイン、携帯性を見ても従来製品と同等か、より洗練された物になっている。
特にスポーツメーカーのNikeは、この分野に力を入れており「Nike+」ハイテク・スポーツグッズという新しいジャンルを開拓し、そのデザイン性の高さも含めて人気を集めている。このNike+の最新コレクション「Fullband」は米国で発売開始15分で売り切れる程の人気商品となっている。