事前期待をどうマネジメントするのか
--「事前期待を冷ます」というのはどういうことでしょうか?
過度に期待された事前期待に対しては、客観的な情報を示してあげることです。例えば実際のものの写真を見せて、どういうものかをきちんと伝えるということ。もうひとつは、第三者の客観的な情報や評価の情報を提供するとか、第三者のコメント、記事を紹介するなどです。
たとえば旅館などでは、最上級の一番良い部屋を改築した一番きれいな状態でパンフレットにのせていて、並のクラスに泊まったお客様からは失望されたりするケースがありますね。こういう落胆を防ぐために一歩先を行く気の利いた旅館では、宿泊される部屋の写真を紹介することも考えられます。中古車の自動車サイトで、写真をきれいに加工して新品同様に示している場合もありますが、多少の傷や価格相応の状態を示してあげる方がお客様の共感を得やすい。
お客様本位に立って場合によっては他社製品を紹介したりする、アドボカシーマーケティングという考え方に少し近いかもしれません。
平均的なサービスであれば、そこまでで十分なのですが、もっとサプライズや感動を与えるようなサービスであれば、潜在的な事前期待に応えなければいけませんね。
これについては、最近では上田 比呂志さんの本(『ディズニーと三越で学んできた日本人にしかできない「気づかい」の習慣』)が参考になります。上田さんは三越の立場で、自ら希望してディズニー大学に行った後、フロリダのパビリオンの館長を経験された方ですが、ディズニーの仕組みや仕掛けだけでは、日本の「気づかい」や「おもてなし」には勝てないと言われています。
マニュアルや仕掛け、仕組みで対応だけでは、本当の共感は得られません。ディズニーランドの中で子供たちにキャンディーを配る場合、欧米人であれば手を差し出してくる子供にあげますが、日本人スタッフはもじもじして手を出さない子にもあげるといいます。こういう気づかいの部分は、仕組みでは実現が難しい部分です。
今、サービスの世界では、欧米式のホスピタリティと日本的な「気づかい」「おもてなし」をあわせ持つことが大切になってきています。
サービスをプロセスに分解し、モデル化する時に重視する考え方にサービス品質という概念があります。
サービス品質には6つあります。正確に対応する、迅速に提供する。柔軟に対応する、共感性、安心感などがあります。この中でも、共感性という部分が最も大事だと思います。日本人の「気づかい」や「おもてなし」といった国民性はこういう共感性の発揮によるものです。本書の監修者でもある小林弘人さんも別著の『メディア化する企業はなぜ強いのか』で、「近江商人の『三方よし』のコンセプトは、ウエブによってつながった今の企業活動もっとも求められているものだと考えます」と語っています。本書もそうした共感の形成のための、ソーシャルメディアの活用について、具体的なヒントを出して、企業のマーケッターやビジネスを進める方とサービスサイエンスの橋渡しが出来ればと願っています。