今回は、新刊『スタートアップ・マニュアル』の3つの見どころの後編として、顧客発見ステップの重要なコンセプトである「製品と市場のフィット」と顧客実証ステップである「重要なメトリック」を解説し、最後に「顧客開発モデル」の原理原則について紹介します。(前編はこちら!)

「リーンスタートアップ」、「顧客開発モデル」などの起業家手法が、話題となっています。そして、ベンチャー企業だけではなく、大手企業の新規事業開発の場面でも、これらの起業家手法が使われ始めています。 翔泳社発行「ビズジェネ」では、WEBサイトの公開を記念して、新規事業開発、ビジネススタートアップのバイブル『アントレプレナーの教科書』(スティーブ・ブランク著・堤孝志、他訳)のダイジェスト版(PDFデータ)を、アンケートにお答え頂いた方に漏れ無く、プレゼント致します。
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顧客発見ステップの重要コンセプト「製品と市場のフィット」とは?
『スタートアップ・マニュアル』では、顧客発見から顧客実証、さらに顧客開拓への移行の可否を判断する手順が、『アントレプレナーの教科書』より具体的かつ定量的に進化しています。これは、顧客開発やリーン・スタートアップの実践時の「ピボットすべきか否かについてどう判断すれば良いのか」という疑問に応えようとするものです。
顧客発見から顧客実証への移行の可否を判断するときには、「ニーズに応える」をしっかりと確認して判断できるように、「製品と市場のフィット」という新しいコンセプトを導入しています。
「製品と市場のフィット」は、英語では「Product Market Fit」です。これはWebブラウザの元祖である「モザイク」を開発し、ネットスケープ社の経営者だったマーク・アンドリューセンが提唱した言葉で、顧客が製品を“切実に”欲しがっている状況を示しています。
『スタートアップ・マニュアル』では、ときどき「課題と解決策のフィット(Problem Solution Fit)」として区別して紹介されることがある概念と「製品と市場のフィット」を同じと定義しています。ビジネスモデル・キャンバスでいえば、以下の図のように、バリュープロポジションと顧客の課題/ニーズが整合している状況です。

前回、例として挙げた「出産祝いドットコム」というグループ・ギフティング・サービスの場合、顧客が「集団でプレゼントをあげるとき、贈答品選びやその後の精算が面倒で困っている」という切実な課題に悩んでいて、その課題が「出産祝いドットコム」で提供しようとしている贈答品選定や事後精算機能によって確かに解決されると納得する人がたくさんいるのであれば、製品と市場(=顧客)はフィットしているというわけです。
仮説検証の総仕上げとして、「製品と市場のフィット」を確認すると説明していますが、実は、仮説構築段階でも同様にやるべきです。なぜなら、ビジネスモデルの要素を「顧客は誰」「製品の価値はこれ」といった具合に、個別各論で別々に考えていると、そもそも仮説段階で製品と市場がフィットしていなかったということは意外とよくあるものですから。
「製品と市場のフィット」を含めて『スタートアップ・マニュアル』では、顧客発見ステップを十分こなし顧客実証スッテプへ進むのか、それとも、ピボットして最初からやりなおすべきかについての最終判断を下すために、以下のチェックポイントでの確認を勧めています。
1:製品と市場はフィットしているのか?
- 課題の解決策には「大きな」需要があるか?
- 製品が課題の解決策になることを顧客が納得しているか?
2:顧客は誰か?
- どうしたら顧客にリーチできるか?
- 主要ターゲット顧客に効率よくリーチできるほどに、その行動を熟知できたか?
3:収益を上げながら会社をスケールできるか?
- 大きな成長は期待できるか?
- スケーラブルでいずれ大企業になれる潜在性があるか?
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堤 孝志(ツツミ タカシ)
総合商社、シリコンバレーのVCを経て、2003年から国内のVCに勤務。日米・アジアにて幅広くベンチャー投資活動を行う。傍ら個人的な活動として「顧客開発モデル」を中心とした講演、レクチャーを精力的に行っている。東京理科大学工学部卒。McGill大学経営大学院修了。訳書に『アントレプレナーの教科書』『ス...
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飯野 将人(イイノ マサト)
大手金融機関、米系コングロマリットといった大企業勤務の後、日米複数のスタートアップの経営に参画。 その後2003年から2012年まで国内VCにてベンチャー投資に取り組む。 2012年4月より西海岸発のハイテクベンチャー、ナント・モバイル取締役副社長に就任。 傍ら個人的な活動として「顧客開発モデル」を...
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