サービスデザインに関しては、最近では多くのプロフェッショナルの方が言及されており、日本でも関心が高まっていることが伺えます。今回の連載では、“生活革新イノベーション”を実現するビジネス開発手法としてのサービスデザインに注目します。サービスデザインの背景を整理するとともに、アメリカのサービスデザインの事例を紹介し、日本でサービスデザインを実践するうえでの課題と方法論を探っていきます。第1回目となる今回は、「サービスデザイン」が最近になって注目されている背景とエッセンスを紹介します。
サービスデザインが注目される背景とは?
博報堂のコンサルティング局では、5、6年前から、デザイン思考プロセスを活用し、企業の製品やイノベーション開発のお手伝いをしています。「イノベーション=技術革新」と理解されがちですが、「生活革新イノベーション」は、人々の生活がどのように変化するかに軸足を置いた、いわゆる、“人間中心イノベーション(Human Centered Innovation)”を紐解いたキーワードとして、ご紹介しています。
日本でサービスデザインが注目されている一つの背景は、プロダクトだけを販売するだけでなく、プロダクト+サービスでビジネスを展開する、いわゆる、“サービサイジング”への期待が高まっていることが挙げられます。また、機能だけでは付加価値を出すことが難しくなってきたITセクターにおいても、「機能+経験価値」としてのサービスデザインが注目されています。
サービスデザイン先進国であるヨーロッパやアメリカでは、どのような背景でサービスデザインが注目されてきたのでしょうか?日本ではサービスデザイン単体として注目されている印象もありますが、欧米では、ユーザー中心思考(デザイン思考)→インタラクションデザイン→サービスデザイン、という流れを踏まえてサービスデザインへの注目と実践が高まっています。

欧米では、ユーザー中心思考を活用したプロダクト開発が定着しています。そのうえで、PCやモバイルデバイスなどのスクリーン上でのインタラクションが重要な位置を持ち始めた背景で、インタラクションデザインの領域が急拡大しました。サービスデザインは、「プロダクト+インタラクション」に加えて、空間デザインや接客などの人的インタラクション、さらにはビジネスモデルやブランディングといった要素が加わり、ビジネス開発の側面をもったユーザー中心デザインの総合領域として発展しました。
一方、日本では、一部のデザイン実践者の方々を中心に、プロダクトやWEBやモバイルでのインタラクションを人間中心に設計しようとされている流れは確かにあります。しかし、事業そのものをユーザー中心の経験デザインと捉え、あるべきユーザー経験からプロダクトやスクリーンインタラクションを総合的に設計しようとする動きは、まだ発展途上のように思われます。
日本でサービスデザインの議論が活発になることは、こうした包括的な事業設計の議論にもつながる可能性があります。このことは、何かと部分を最適化することに重点が置かれがちな日本の産業界の力点を、よりユーザー中心かつ包括的なものにするための起爆剤として考えられます。
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岩嵜 博論(イワサキ ヒロノリ)
株式会社博報堂 コンサルティング局ストラテジックプラニングディレクター
博報堂において国内外のマーケティング戦略立案やブランドプロジェクトに携わった後、近年は生活者発想によるビジネス機会創造プロジェクトをリードしている。専門は、エスノグラフィックリサーチ、新製品・サービス開発、ビジネスデザイン、ユーザ...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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