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戦略論の系譜としてのオープン・イノベーション(前編)-ポジショニング理論から資源ベース論へ

(第5回)


前回は、オープン・イノベーション実践のために必要な自社での取組みと、仲介サービスの組み合わせを解説した。今回、次回の記事では、オープン・イノベーションを狭義に捉えずに、企業の戦略論の系譜の中で捉え直すことで、本質を見ていこうと思う。今までの連載はこちら。

戦略論の系譜に見るオープン・イノベーションの意味と重要性について

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写真.TBWA博報堂 高松充(筆者)

 イノベーションの加速化は、今や企業の競争力だけでなく、経済全体の成長にとって最重要な課題です。そのような環境において、オープン・イノベーションの重要性が世界中で叫ばれています。日本においては、オープン・イノベーションという言葉だけが先行してしまい、この手法が持つ本来の意味や重要性を置き去りにしてしまっている感が否めません。

 オープン・イノベーションを正しく理解するためには、この手法を研究開発の方法論と狭義に捉えるのではなく、新しい経営システムとして捉えるほうが理解しやすいと考えています。つまり、進化を続ける経営戦略論の系譜の中で誕生した新しいパラダイムと捉えたほうが理解しやすいということです。

 では一体、オープン・イノベーションとは、どのような企業の戦略論の変化の影響を受けて誕生した経営システムなのでしょうか。以下、簡単に企業の戦略論の系譜を振り返りながら、経営システムとしてのオープン・イノベーションの意味と重要性を解説していきたいと思います。

ポーターのポジショニング・アプローチへの批判

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写真.『新版 競争の戦略』
(ダイヤモンド社・刊)

 1980年代に入り、今までのオペレーション中心であった戦略論は、さらに進化をしていきました。1980年にハーバード・ビジネススクール教授のマイケル・ポーターが『競争の戦略』を発表ました。業界の収益性を決める5つの競争要因(新規参入の脅威、売り手の交渉力、買い手の交渉力、代替品の脅威、競合企業間の競争)から、業界の構造分析を行う「ファイブフォース・モデル」が広く知れ渡りました。

 またポーターは次に『競争優位の戦略』を発表しました。購買した原材料等に対して、企業内部の各プロセスにて価値(バリュー)を付加していくことが企業の主活動であるという、「バリューチェーン(価値連鎖)」を提唱しました。


 一方で、ポーターの主張は、先発、後発優位といった市場に参入するタイミングや、差別化、セグメンテーションといったポジショニング論が多く、組織的なリソースに対するアプローチは十分ではありませんでした。また、「業界の状況の違いや業界内の競合グループの違いが、企業の収益性を規定する」と主張するものでした。しかしながら実際には、同一業界内においても、同一競合グループにおいても、企業間の収益格差が存在しました。つまり、「企業の内部要因が生み出す収益性の格差に対するアプローチが十分でない」と批判されたのです。

次のページ
戦略論の「資源ベース論(リソース・ベースド・ビュー)」への変遷

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この記事の著者

高松 充(タカマツ ミツル)

  株式会社TBWA博報堂 CSO(チーフ・ストラテジー・オフィサー) Human Centered Open Innovation(HCOI)事業の統括責任者。 博報堂にて営業職、在米日本大使館駐在を経て、経営企画職を経験。 博報堂DYグループの社内ベンチャー制度の審査委員な...

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