前回は、オープン・イノベーションへと繋がる戦略論の変遷を、ポーターのポジションニングアプローチからコア・リジリティ(硬直性)まで俯瞰しました。今回は、戦略論の変遷が、ダイナミック・ケイパビリティからオープン・イノベーションにどのように繋がるかについて俯瞰し、最後に読者のために提供できる自社サービスも少しだけ紹介します。今までの連載はこちら。
ダイナミック・ケイパビリティからオープン・イノベーションへ

組織内部のケイパビリティを外部の環境にいかに適応させるか、そのためにはどのように従来のコア・ケイパビリティーを変更させる学習をするべきか、といったテーマが経済学者を含めて研究されるようになっていきます。
こうした背景の中で誕生したのが、カリフォルニア大学バークレー校教授のデイビット・J・ティースら(1997年)の「ダイナミック・ケイパビリティ論」です。
ティースらは、内部資源と外部資源を効果的にコーディネートできる経営力を有している企業が勝者となりうることを提示しました。つまり、企業の内部と外部にケイパビリティを創出し、コーディネートすることができるダイナミック・ケイパビリティの能力が高い企業ほど競争優位性を保つということです。
さらにティースが強調したことは、企業の外部との能動的な協調関係です。つまり、企業境界線をまたぎながら、自社の資源と他社の資源とをコーディネートさせる「オーケストラレーション」の能力が優れていれば、企業は競争優位を生み出せると提起しました。
また経済学者のリチャード・ラングロアが「消えゆく手(Vanishing hand)」という表現を用いて、脱垂直統合化の流れの中で起きている「企業の境界線」の問題を提示しました。シュンペーター賞を受賞したラングロアは、チャンドラー(1977年)が提示した少数の経営者による川上から川下にいたる垂直統合型の自前主義経営(=みえる手:Visible Hand)は、歴史的に見れば一つの通過点にすぎないと提起しました。
そしてニューエコノミーの流れにのる企業は、自社のケイパビリティのみならず、市場(=他の企業)のケイパビリティも利用し、利益を享受する方向に進んでいくことを主張しています。このように、「企業の境界線における相互作用」は、「エコシステム(企業の生態系)」という言葉でも表現され、現在、最もホットな経営テーマであるといって良いだろうと考えています。
前回から2回に分けて説明してきように、マイケル・ポーターらによって提唱されたポジショニング・アプローチが、外部環境分析に偏重していたことへの批判から生じた資源論ベースは、内部資源と外部資源の活用という「企業の境界線における相互作用」の議論へと進化していきました。技術戦略の権威であるマルコ・イアンシティーらが指摘するように、現在、企業競争の舞台は「企業間」から「企業ネットワーク間」へと変化しつつあると言って良いだろうと思います。
つまり、「企業は自社の視点での収益モデルだけでは持続的な事業システムを描くことができなくありつつある」ということです。
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高松 充(タカマツ ミツル)
株式会社TBWA博報堂 CSO(チーフ・ストラテジー・オフィサー) Human Centered Open Innovation(HCOI)事業の統括責任者。 博報堂にて営業職、在米日本大使館駐在を経て、経営企画職を経験。 博報堂DYグループの社内ベンチャー制度の審査委員な...
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