これまでの連載では、組織的なイノベーションを主なテーマとして扱ってきた。今回からは、道具としてのデザイン思考に焦点を当てる。まずは組織経営において重要とされる「デザイン」そのものの位置づけも明らかにしながら、デザインの特徴をみていきたい。
デザインへの注目
“Design as a discipline” ——アメリカに本社を置く世界最大の会計事務所デロイト・トーシュウ・トーマツが、今年発表したtech trendsにおいて「経営原則としてのデザイン」が言及された。「デザインは、単にITやマーケティングといった領域だけのものではない。企業体そのものに関わる話だ」と述べられている。また、英国デザイン・カウンシルの調査でも、ビジネスの成功要因No.1は「デザイン」だと6社に1社が回答している。急成長している企業に限定すれば、その割合は2社に1社、実に47%が該当する。

色々な場所で話題にはなっているデザインではあるが、組織経営の常識となるまでには至っていない。しかし、今後は社会における教養として徐々に普及していくだろう。たとえば、ドラッカーがその重要性を解く50年以上前は、マネジメントという概念に馴染みのない者の方が多かった。しかし、もし今「マネジメントのない組織」があるなら、誰もがその組織を疑問視するはずだ。同様に、これからは「デザインのない組織」を「デザインのある組織」へと変える大きな流れが生まれるだろう。
では「デザイン」という言葉は何を意味しているのだろうか?日常的にイメージできるものとは、ペットボトルの色や形といった「見た目」に関わる内容だ。しかし、21世紀における経営概念としのデザインは意味が違う。問題解決だ。
アメリカの認知心理学者ハーバート・サイモンの言葉を借りれば、「現状をよりよいものに変えること」がデザインになる。社会に横たわる問題を見つけ、解決することがデザインの役割だ。問題解決の領域は、大きく別けて3つある。具体的なものから抽象度が高い順に並べると、(1)外観、(2)設計、(3)関係だ。それぞれ見ていこう。
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柏野 尊徳(カシノ タカノリ)
岡山県出身。専門はイノベーション・プロセス。スタンフォード大学d.schoolでイノベーション手法:デザイン思考を学ぶ。同大学発行の『デザイン思考家が知っておくべき39のメソッド』監訳など、デザイン思考関連教材は公開6ヶ月でダウンロード5万件。岡山大学大学院で3年間教鞭を執った後、慶應義塾大学SFC(湘南藤...
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