1年目のPGEConsは着実な成果を積み上げた
特定のビジネス領域の活性化を目的に、企業同士が集まり共同で活動するコンソーシアムが発足することはよくある。発足時には、かなり威勢がいいのが常だ。「IT業界が大きく進化する」「顧客に大きなメリットをもたらす」的なメッセージが、声高に発信されることも多い。とはいえ、その後の活動の様子はあまり伝わってこない。そして、いつの間にかその集まりは立ち消えてしまう、なんてことも。
なので、PGECons発足時には、正直あまり大きな成果は期待できないのではと思った。とくに、各社の技術ノウハウを持ち寄り、それをまとめPGEConsが成果にする。これは、各社の利害関係の面からもうまくいかないのではと思ったのだ。
ところが、そんな懸念を振り払い、PGEConsは1年の活動期間後にきっちりと成果を公表した。その活動も確実に拡大している。2012年4月に共同発起人企業10社で始まり、2013年8月時点で正会員企業18社、一般会員企業22社にまで増えている。そして、2013年4月には1年間の活動成果を発表する成果発表会を東京で開催(6月には大阪でも開催)、230ページにおよぶ技術検証結果のドキュメント公開に至っている。ちなみに公開後、8月時点で850あまりの資料ダウンロードがあり、PostgreSQLへの関心の高さがうかがえる。
さらに、2つの技術ワークグループで行われた活動は、2年目には1つ増え3つとなった。そして、今年度も12月には活動成果の中間発表を行い、来年春には2度目の活動成果発表会を行う。このように、着実なマイルストーンも置かれているのだ。
ノウハウを自社に溜め込むよりそれをベースに共同で新たな知見を得るほうが価値が高い
PGEConsでは、理事会がコンソーシアム全体の運営を担当する。具体的な活動は技術部会と広報部会の2つが担う。この具体的な活動を技術と広報に明確に分けたことが、コンソーシアムの活動がうまく運んでいる要因の1つだと言うのは、SRA OSS, Inc. 日本支社取締役支社長で、PGEConsの事務局長でもある石井達夫氏だ。
「結果として何を出すのか、いつ出すのか、技術部会は広報部会から常にプレッシャーを受けています。技術部会だけで活動していたら、きちんとスケジュール通りに成果を発表できなかったかもしれません」(石井氏)
広報部会のプレッシャーはあったとはいえ、技術部会で各社ノウハウを持ち寄り共有することに抵抗感はなかったのだろうか。この疑問に日本電信電話株式会社 NTT オープンソースソフトウェアセンタ 基盤ユニットマネージャでワークグループ2の移行に関する技術部会活動に参加した邊見 均氏は、「情報は生ものです。なので自分のところにだけ置いておいても、すぐに古くなってしまいます」と言う。自分たちで大事に抱え込んでいるよりは、持ち寄りそれを新たな知見に発展させる。そのほうが、価値は高まるという判断ができた。実際、活動結果として公表した情報だけでなく、ワーキンググループではさらに具体的な情報収集もしている。それらを導きだし共有できたことこそが、ワークグループに参加した技術者には価値が高かったと言う。
また、富士通 プラットフォーム技術本部 プロダクトソリューション技術統括部 OSS技術センター マネージャーで、ワークグループ1の性能検証に携わった野山 孝太郎氏は「ノウハウをどこまで出すかについては、社内でも議論がありました。とはいえ、クローズドの世界で情報を溜め込むことには限界を感じていたのも事実。実際に活動を開始し情報共有を始まると、これはいいなという実感がありました」と語る。
富士通 OSS技術センターの原 嘉彦氏は「各社が情報を出し合うよりも、各社の技術をベースに新たに得た情報を共有することが重要でした。参加したみんなが実際に動き、新たな成果を得る。さまざまな経験を持つ各社が参加したことで、より大きな範囲で検証が行えたメリットは大きいです」と言う。
また、別なメリットとして、「各社は、会社の仕事としてコンソーシアムに関わっていました。そのためもあり、ワークグループへの参加は必ずしもPostgreSQLに詳しい技術者だけではありませんでした。つまりは、人材育成的な側面もあったのです」と野山氏は言う。
今回性能検証では、NEC、日立、HPというベンダーの力を借り、最新のコア数の多いハイエンドサーバー機を使い、PostgreSQLがどんな性能を発揮できるかを検証した。長時間にわたり、こういったマシンを存分に扱えるのは、技術者にとってはかなり興味深い。「コンソーシアムではハイエンドのサーバーを実際に触り、成果が見える形になっていく。これは技術者として、モチベーションを高く持ち続けられる環境でした」と原氏は言う。
邊見氏は「最初は何をすればいいのか、そもそも1年間でできるのか不安もありました。しかし、各社で課題を持ち寄り、それを検討しサブテーマに分ける。そのテーマごとに担当を決め、権限を委譲するような形で進めた結果、実際の作業ベースに落ちてからはペースも上がりやりがいを持ってできました」と言う。
技術者としてのやりがいを見出せれば、異なる会社同士での共同作業でも思っていた以上にスムースに作業が進んだようだ。
もう1つ、成果物だけではない動きも企業サイドには出てきている。
たとえば富士通では、最近流行の垂直統合型のデータベースシステム「Fujitsu Integrated System HA Database Ready」の提供を開始した。これは、同社のハードウェアに同社のデータベース「Symfoware」を組み合わせたプラットフォーム。
しかし、データベースのエンジン部分は、PostgreSQLを採用したのだ。
「これには、コンソーシアムで得たPostgreSQLの情報も役立てています」(野山氏)
これは、企業が仕事として真剣にコンソーシアム活動に取り組んだ成果でもあり、今後、各社はコンソーシアムの成果を自社ビジネスに順次取り入れていくことになるだろう。