小さな変化を継続的に行う「リトル・ビッグス」は、日本の組織マネジメントにあう
もう一つ著者が主張するのは、「リトル・ビッグス(Little Bigs)」というものです。すなわち、小さな行動や変化でも大きな効果をもたらすことができるということです。小さいからといって馬鹿にしたり諦めたりしないで、組織の自発性を高め、構成員一人ひとりが信念をもって小さな取り組みに創造的に取組むことの重要性を説いたものです。
文化の議論に戻るならば、プロセスではなく、文化を育成するということは、このリトル・ビッグスを同時多発的に継続して行うためのプラットフォームづくりに他なりません。
私が本書を通じて感じたのは、著者はそうは言ってもなかなか苦労しているのではないか?ということでした。というのも、前述した文化を殺す5つの要因の5番目「マネジメントが一方的に裁決を下す」は、アメリカ型企業の行動流儀として深く染み込んでいるのではないかと思ったからです。この流儀が染み込んだ組織では構成員の自発性を誘発する文化づくりはなかなか困難です。
一方で日本企業のことを考えると、アメリカ型企業と比較して楽観的に考えることができるのではないかと思っています。というのも、まさに「マネジメントが一方的に裁決を下す」は、日本企業ではやや控えめではないかと指摘したように、日本企業はどちらかと言えば、「ボトムアップを推奨する風土」があるためです。
たまたま成長の過程でプロセス志向が高まり組織の柔軟性が薄れているだけで、今が過渡期と捉えることもできるのではないでしょうか。技術的ソリューションにとどまらない全方位的なイノベーションへのニーズが高まるにつれ、日本企業は自発的な組織文化の育成に活路を見出し、一定の成果を上げていくことが期待されます。
- 炭谷俊樹、「第3の教育 突き抜けた才能は、ここから生まれる」、角川書店、2000年
- 炭谷俊樹、「実践 課題解決の新技術 これからのビジネスに必要な「探究思考」を身につけよ」、PHP研究所、2013年