イノベーションに効く洋書01:“Ten Types of Innovation: The Discipline of Building Breakthroughs” 後編
(第2回)
自社のイノベーションを実現する「変化の方向」を見極める
これまで他社や業界を分析する方法を見てきましたが、肝心の自社のイノベーションを実現するために「10の型」をどのように使えば良いでしょうか。大きな流れとしては、次の4つのステップで進めていきます。
- イノベーションの「変化の方向」を見極める
- イノベーションの「強さのレベル」を見極める
- 使用するイノベーション戦術を選ぶ
- これらを組み合わせる
最初のふたつ、つまり「変化の方向」と「強さのレベル」を明確にすることで、イノベーションを実現するための軸を見極めます。そのうえで、イノベーションを実際に興していくために、3点目にある具体的な戦術を選ぶことになります。それでは、ひとつずつ順番に見ていきましょう。
(1)イノベーションの「変化の方向」を見極める
本書では、イノベーションの方向は3つの方向があるとしています。
方向 | 概要 |
---|---|
1 ビジネスモデルの変化 (Business Model Shift) |
顧客にサービスを届け、儲けを生み出すためのバリューチェーンの要素(社内資産や能力など)を変化させること。 「10の型」のうち、まず左側にある「収益モデル」、「ネットワーク」、「組織構成」、「プロセス」を変化させ、その後、右側にある残りの要素を変化させる。 |
2 プラットフォームの変化 (Platform Shift) |
顧客にサービスを届け、儲けを生み出すためのバリューチェーンの要素(社内資産や能力など)を変化させること。 「10の型」のうち、まず左側にある「収益モデル」、「ネットワーク」、「組織構成」、「プロセス」を変化させ、その後、右側にある残りの要素を変化させる。 |
3 顧客経験の変化 (Customer Experience Shift) |
他にはないような方法で、顧客とつながり、サービスを提供すること。 「10の型」のうち、まず右側にある「チャネル」、「サービス」、「ブランド」、「顧客エンゲージメント」を変化させ、その後、左側にある残りの要素を変化させる。 「10の型」のうち、まず左側にある「収益モデル」、「ネットワーク」、「組織構成」、「プロセス」を変化させ、その後、右側にある残りの要素を変化させる。 |
では、自社がどこから手を付ければ良いのかというと、その答えを見つけるのは簡単ではないと著者は言っています。少なくとも一ヶ月くらいの時間を、この方向を見極めるためだけに重点的にかける必要があるとしています。
ひとつの考え方としては、自社が属している業界は「10の型」のうち、どの部分に重点を置いてビジネスを行っているかを考えることから始めます。たとえば金融サービス業界や不動産業界、航空業界であれば「10の型」のうち、「収益モデル」、「ネットワーク」、「組織構成」、「プロセス」などの要素に重点が置かれています。その場合、イノベーションの方向でいえば「ビジネスモデルの変化」をまずは考えます。一方、エンターテインメント業界などは「10の型」のうち「チャネル」、「サービス」、「ブランド」、「顧客エンゲージメント」に重点が置かれているので「顧客経験の変化」という観点からイノベーションの方向を考えます。
3つの方向のどれにするのかが決まったら、その要素のうち、業界内で十分な投資が行われていない要素に投資するのが競争優位をつくるために有益だとしています。たとえば「顧客経験の変化」という方向でイノベーションを実現したいと考えた場合、取り組みを行う要素の選択肢としては「チャネル」、「サービス」、「ブランド」、「顧客エンゲージメント」の4つがあります。このうち、業界内では「チャネル」にあまり重点が置かれていないということがわかれば、ここを工夫することで、競合との差別化ができる可能性が高まります。
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新井 宏征(アライ ヒロユキ)
SAPジャパン、情報通信総合研究所を経て、2013年よりプロダクトマネジメントに特化したコンサルティング会社である株式会社スタイリッシュ・アイデアを設立。2006年に『プロダクトマネジャーの教科書』を翻訳出版後、企業に対するプロダクトマネジメントの導入や新規事業開発、製品開発の支援を行っている他、「プロダクトマネジャー養成講座」を開講し、プロダクトマネジャーの養成にも力を入れている。また、プロダクトマネジメントに関する話題を中心とした「Stylish Ideaニューズレター」も毎週発行している。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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