ジョブズの悩みと会社にとってのクリエイティビティ
本書は、ブッシュネルがパリで開催したパーティーでジョブズと再会する場面から始まります。ブッシュネルの豪勢な邸宅で開かれたパーティーの後、ブッシュネルとふたりでゆっくり話しをする機会を得たジョブズは、ブッシュネルに悩みを打ち明けます。その時すでにアップルを立ち上げていたジョブズは、ブッシュネルにこう伝えたと書かれています。
「あらゆるアイデアを自分が出すことを、(アップルの社員)みんなが期待している。でも、あなたはそうやって強い会社を作ったわけではないんでしょう?」
ブッシュネルとジョブズの会話が行われたのは1980年のことだと書かれているので、ジョブズがこの通り語ったかどうかは定かではありません。しかし、彼がこういう悩みを持っていたということは本当なのでしょう。プロダクトに対して強い思い入れを持ち、時には「独裁的」とも評されるジョブズですが、必ずしもそういう状況に満足していたわけではないことがうかがえます。
世界のエクセレントカンパニーの中には、アップルのように強烈なリーダーが会社全体のクリエイティビティの源泉となり、そこから生まれるアイデアでイノベーティブな会社であり続ける企業が少なくありません。しかし、現在のアップルを見るまでもなく、そのような体制で経営されている企業は決して持続可能な会社にはなり得ません。
そこで、今年70歳を迎え、ジョブズからの全幅の信頼を得ているブッシュネルが、ジョブズのような社員を雇い、社内で活躍させ、育てていくためのルールをまとめたのがこの本です。
「ポン」というアドバイス
本書では、クリエイティビティにあふれる社員を雇い、育てるための52のルール(52個目はConclusionとなっていますが、後ほど紹介するとおり、重要なルールとなっている)をまとめています。特徴的な点は、それらを「ルール」とは呼ばず、アタリが生んだ大ヒットゲームの名前を借用し「ポン(pong)」と呼んでいます。
ブッシュネルがあえて「ルール」ではなく、実質的に意味を持たない「ポン」という用語を使っているのは、彼がクリエイティビティとは厳格なルールを定めれば生まれるものではないと信じているからです。彼は、すべての人に対して、いつも同じように当てはめることができるルールなんてものは存在しないと考えています。そこで「ルール」というような堅苦しいものではなく、ちょっとしたアドバイスというような意味合いで「ポン」という言葉を使っています。
ひとつひとつの「ポン」はどれも読みやすく、具体的なものばかり。最初から順に読まなくても、目次を見て、気になったものだけを拾い読みする読み方でも役に立つような構成になっています。