DevOpsは「ソフトウェア・ライフサイクル全体の最適化と迅速化」
IBMでは、DevOpsを開発と運用の連携強化といった意味に限定せず、企画から開発、運用を経て、顧客からフィードバックを得るための「ソフトウェア・ライフサイクル全体の最適化と迅速化」ととらえている。DevOpsの最大の目的は「市場が求めるものを市場が求めるスピードで提供すること」だ。
イベント開催にあたり挨拶に立った日本IBMの専務執行役員ソフトウェア事業担当 ヴィヴェック・マハジャン氏は、この目的を達成するには、大きく2つのシステムで変化が求められると説明した。1つは、情報を登録して処理する「System of Record」で、もう1つは、モバイル、ソーシャルといった顧客とのつながりを実現する「System of Engagement」のシステムだ。
「こうしたシステムの変化のなかでは、開発方法やプラットフォームは大きく変わってくる。IBMの最大の価値は、イノーベイティブな技術を提供できること、新しい市場を創り出せること、グローバルプラクティスがあること。新しい市場でリーダーシップを発揮していきたい」(マハジャン氏)
続く、基調講演には、日本IBMソフトウェア事業ラショナル事業部事業部長の渡辺公成氏が登壇し、DevOps推進にあたっては、ツール、プロセス、人と文化の3つがポイントになると主張した。
まず、ツールについては、2003年にラショナル事業部をIBMに統合して10年経ったことに触れながら、モバイルやシーシャル、クラウド、ビッグデータなどのトレンドにあわせて、ラショナルのポートフォリオを拡大させ、コラボレーティブライフサイクルマネジメント(CLM)のプラットフォームに発展してきたことを説明した。
「UrbanCodeの統合により、単なる継続的インテグレーションではなく、開発、テスト、モニタリングといったDevOpsの要件すべてを網羅した。今まさに、DevOpsライフサイクル管理プラットフォームとして顧客に届ける準備が整った」(渡辺氏)
また、プロセスについては、ツールとプロセスを統合することが重要だとし、これまで提供してきたRUP(Rational Unified Process)を発展させたDAD(Disciplined Agile Delivery)を展開していることを紹介した。DADは、アジャイルの方法論を取り込み、大規模な環境でも利用できるようにした方法論で、「DADでは、開発チームと運用チームをつなぐためのプラクティスを提供している」(渡辺氏)という。
人と文化については、3つのうちで最も重要な部分だとした。「DevOpsは利害の異なるチームを1つにするためのカルチャー。人の気持ちやモチベーションを無視することはできない。DevOpsの取り組みは組織変革といっても過言ではない」とした。
この後、特別講演として、ヤフーChif Mobile Officer室の河合太郎氏が登壇。同社におけるリーン・スタートアップの取り組みとして、新しいモバイル・アプリケーションを開発する際に、アジャイル、ピポット、MVP(Minimum Viable Product)などといったモデルや方法論を活用していることを紹介した。
UrbanCode共同創設者が語るリリースとデプロイの効果
基調講演の後半では、米IBMでRational Software事業部のキーパーソン3名が登壇し、DevOpsソリューションの概要や特徴などを解説した。
1人めは、UrbanCode共同創設者で現在リリース製品担当ディレクター(Director, Deploy and Release Product Line)を務めるマチェイ・ザワツキー(Maciej Zawadzki)氏だ。ザワツキー氏は、「DevOpsライフサイクルにおける継続的デリバリーの重要性」と題し、UrbanCode製品の特徴とそれがIBMのDevOpsソリューションにどう組み込まれているかについて説明した。
IBMにおけるDevOpsのビジョンは、計画と測定、開発とテスト、リリースとデプロイ、モニターと最適化といった幅広い範囲の業務プロセスをカバーする。UrbanCodeはこのうちのリリースとデプロイの部分を担う製品になっており、具体的な製品としては、「IBM UrbanCode Deploy」「IBM UrbanCode Release」を提供するという。
UrbanCode Deployはテスト環境でのデプロイや本番へのデプロイを自動化する製品だ。「ビジュアルプロセスエディタを使って、デプロイのステップをGUIで設計できる。webSphereやMQ、DB2、ロードバランサー、モニタリングシステム、各種ツールなどとの連携が可能だ。サーバやアプリケーションのバージョンの違いを把握し、インテリジェンスを持ったかたちで差分だけをリリースするといったことができる」(ザワツキー氏)という。
一方、UrbanCode Releaseはリリースを計画し、コーディネーションを行う製品だ。「複雑に依存しあったアプリケーションについて、特定のアプリケーションとリリースをひもづけて管理を行いやすくしたり、リリースにタスクを設定し、進捗の確認やタスクのアラートを受け取ったりできる。どのリリースをいつテストするかなどを適切に管理できるようになる」(同氏)という。
ある国際的な投資会社は、UrbanCodeを導入することで、リリースとプロセスを自動化し、リリース期間を2~3日から1~2時間に短縮、年間200万ドル以上のコスト削減につながったという。また、ある為替取引会社では、リリース後の月曜日にすべてのスタッフが障害対応に追われる「魔の月曜日」に悩まされていたが、デプロイプロセスを自動化し、初期環境でテストすることにより、月曜日の障害対応をすべてなくすことができたという。
続いて、Rational Software Chief Software Economistのウォーカー・ロイス(Walker Royce)氏が「ソフトウェア・デリバリー・アナリティクス 洞察力の強化、予測性の向上」と題して、ソフトウェア開発における予測性について解説。また、Rational SoftwareのCTO、ケビン・ストゥドリ(Kevin Stoodley)氏が「Ratinalが描く未来 ~CLMとDevOpsの未来とクラウド上での開発~」と題し、CLMとDevOpsをクラウドで提供することや、PaaS基盤「Cloud Foundry」上に構築した開発環境「IBM BlueMix」などを紹介した。
なお、基調講演後の午後のセッションは、3会場に分かれて15の講演が行われた。会場に設置された展示コーナーでは、DevOpsゾーンとものづくりゾーンに分けて、IBMのソリューションを展示。イベントに参加したユーザー企業の担当者は、セミナーや展示員の説明に、熱心に聞き入っていた。