独学で技術を学び、システムを構築
「大学は工学部で、水蒸気機関の設計とかをやっていました。当時はコンピューターはありましたが、利用できるのはホストコンピューターだけで、設計の作業は紙に図面を引くというものでした」(市川さん)
そんな市川さんが学生時代にやっていたアルバイトが、バイク便のライダー。運べば運ぶだけ稼げるのが、バイク便の仕事。市川さんは都内在住で道を知っていたこともあり、素早く荷物を届けられた。なので「当時は会社の中ではトップライダーでした」とのこと。このアルバイトをきっかけに、就職はアルバイト先のバイク便会社となる。社員になり、ライダーから内勤に。小さい会社だったので、ライダーの管理から配車、備品の管理など、対応する業務は幅広いものだった。
当時はまだNEC PC9801が世に出始めのころ。バイク便会社の業務はあまりIT化はされておらず、紙の台帳での管理などが当たり前だった。
「たとえば荷箱やベストをライダーへ貸し出すのですが、その管理は紙の台帳で行っていました。ライダーが辞めて備品が返却されると、台帳を修正液で塗りつぶしてといった感じで、台帳への転記作業だけでも相当な手間でした」(市川さん)
アルバイトも多く台帳の厳密な運用ができないこともあり、棚卸ししても数字が合わないことも多々。こういう状況を見ていて、市川さんはPCでなんとかできないかと考えた。当時、東芝からJ-3100SSという世界初のラップトップPCが発売された。これには表計算ソフトのLouts 1-2-3が搭載されており、マクロも利用できた。市川さんは、このマクロ機能を使ってLotus 1-2-3の上に台帳機能を作り上げてしまったのだ。
「PCを使えば、正確で早くできます。それを、誰がやってもできる。すごく魅力的でした」(市川さん)
市川さんにプログラミングのスキルがあったわけではない。独学で勉強し、作り上げたのだ。その後は、ITの進化も始まり、業務現場にも次第にコンピューターが進出し始める。働いていたバイク便の会社でも、ホストコンピューターを使って、人事や経理の業務がIT化していた。とはいえ、当時のホストコンピューターはあまり融通がきかない。データを集計しレポートを作りたいと思っても、それを開発会社に依頼するとコストも時間もかかる。そんな状況を改善するためもあり、ホストコンピューターのデータベースをOracle7に載せ替えてしまう。
この時点でも、市川さんは情報システム部門のエンジニアというわけではない。事業計画を立てたり、営業所の所長であったり、さらには事故係であったりと、ITとは関係ないさまざまな業務を担当していた。それらの現場業務をやりながら、なんとか業務を効率化したい。そのために、ある意味「勝手に」現場業務のIT化に取り組んでいたのだ。
まずは、Oracle7のデータベースに対してVisual Basic、ODBCドライバーを使ってデータを抽出できるようにし、クライアントPCのMicrosoft Access経由でデータを見えるようにしたのだ。これで、欲しいレポートを自分たちで自由に作れる環境ができあがった。
この仕組みを作った目的は、シミュレーションをしたかったから。「登録しているライダーがより稼ぎたくなる気持ちにするにはどうしたらいいか、それを考えたかったのです」と市川さん。そこでライダー200人ぶんの過去1年間の配送データをPCに抽出し、Excelで分析を行った。その結果から、配車はどうすれば効率的か、どういうときにライダーへの手当てを増やせばいいかなどを検討し、それを実施したのだ。結果的に、この会社なら稼げるという噂が競合バイク便会社のライダーの耳にも入るようになり、ライダーが集まってくるのだ。ライダーが集まれば顧客対応もよくなり、業界でNo1への規模へとビジネスは拡大した。
「当時は統計学の素養も、コンピューターの知識もあったわけではありませんでした。」と市川さん。やりたいことは明らかだったが、それに対しどうしていいかが分からない。なので、コンピューター館の書籍売り場に足繁く通い、関連しそうな本をとにかく読み漁った。