新規事業の計画法から、企業戦略の中心理論へ
著者のリタ・マグラスは、イアン・マクミランと共に1995年に「Discovery-Driven Planning」を発表し、不確実性下の事業計画は、成功の前提となる仮説に焦点を当てることが不可欠であること、そして、その仮説をいつ・どのように確認するかが、事業計画の本質であることを指摘しました。ここでの「Discovery」とは、気付きや学習を意味する言葉です。事業計画立案時の仮説は仮説に過ぎず、そもそも外れて行くものであるから、いつ・どのようにそれぞれの仮説を確認するかを怠ると、事業が大失敗に終わるまで気付かない、という状況に陥ると指摘します。このことを防ぐための事業計画法が「Discovery-Driven Planning」です。これは、主に新規事業を対象としていました。
*「Discovery-Driven Planning」の詳細に関しては、ビズジェネ連載記事『不確実な時代のビジネスプランに求められること-「仮説指向計画法」が必要な理由』で詳細に解説しております。
この考え方は、2009年にやはりマグラスとマクミラン共著の“Discovery-Driven Growth”の中で、事業実行のプロセスとして発展します。更に、2013年に刊行された本書で、仮説立案と検証・修正は、企業の戦略の根底を支えるものだ、と強く訴えています。
このように、筆者の研究テーマを時間軸で俯瞰すると、筆者が90年代には企業内の一つの活動として位置付けていたイノベーションが、事業環境の不確実性の高まりと、筆者の研究活動の進展とともに、企業戦略の中心にあるべきものであると確信していく変化が見て取れます。
本書の中には、やや極端(理論づけとしては強引)とも思える事例も紹介されていますが、多少の批判を覚悟しても、「競争優位の維持は幻想であり、イノベーションこそ重要だ」と訴える、筆者の迫力が伝わってきます。イノベーションの重要性を、個別の製品・サービスのレベルではなく、企業レベルの競争優位に結び付けている点が本書の特徴です。イノベーションを経営者の視点で語る良書だと思います。