Inforはマイクロバーティカルで製造業の基幹系をクラウド化
一方、クラウドの中でもさらなる市場拡大が期待されるのがSaaSの世界。IaaSは旧来の情報システム部門が管轄してきた要素をクラウドに持っていく話だったが、SaaSは新しい「ビジネスの可能性」をクラウドに持っていく話。コスト削減だけでなく、クラウドだからこそのスピード感や柔軟性といった価値を、より直接的に享受できる世界だ。
このように拡大が期待されるSaaSだが、いまのところ成功しているベンダーはまだあまり多くない。成功の筆頭に立つのがSalesforce.comなのは間違いないだろう。OracleやSAPもSaaSの世界に参入は果たしているが、まだまだリーダー的な存在からは距離がある。
最近、この可能性を秘めたSaaSの世界に本格参入を表明するプレイヤーが増えている。製造業に強いERPパッケージベンダーのInforも、そんな企業の1つだ。Inforは昨年後半から「Infor CloudSuite」という形で、自社サービスを次々とクラウド化し提供している。1月15日に都内で開催した同社のクラウドERPの日本市場展開に関する説明会で日本法人代表取締役社長の尾羽沢 功氏は「クラウドを始めたからすぐに売れるというものではありません。クラウドをやる上でのサポート、デリバリー、プリセールス、マーケティングのメッセージアウトなど、全社一丸となって対応を変える必要があります」と言う。これらは、同社が本格的なクラウドへの取り組みを宣言する前から、取り組んできたことだと強調する。
CRMなどに比べると、製造業の会計やサプライチェーン、生産管理などはクラウド化にはかなり慎重となる領域だろう。とはいえ、Inforが日常的に行っている製造業向けの営業活動においても、クラウドサービスにマーケットニーズがあることが担当者からのフィードバックに現れているとのこと。なので同社のクラウドシフトへの動きは必然。Inforでは2016年度までに売上げの25%をクラウドで締めるとのターゲットを設定した。「これは十分に達成できるものです」と尾羽沢氏は言う。
そんなInforのクラウドサービスの特長は、マイクロバーティカル。これは、特定の業界に極めて特化したクラウドを提供することだ。汎用的なクラウドサービスではないこのアプローチが、顧客にフィットしてきている。日本市場においては製造や販売拠点を海外進出している企業が、そこにクラウドで「さくっとERP入れたい」との要望を持っており、実際にそういった企業からの引き合いも増えているようだ。
Inforには業種の特化性をふんだんに取り入れたSaaS提供とともに、もう1つ既存オンプレミスシステムをそのままクラウドに持って行くソリューションがある。すでにオンプレミスでInforのアプリケーションを使っている場合は、それをクラウドにアップグレードする「Infor UpgradeX」というサービスを提供する。
Inforでは、クラウドのインフラについては自前で新たに用意するのではなく、Amazon Web Servicesと組む形をとった。これによりインフラへの投資を最適化でき、効率的なサービスを提供できると言う。自社でデータセンターを抱える方法もあるが、クラウドの世界は日々動いている。それに追随するとなれば大きな投資が必要になる。なので、クラウドインフラに強いところと組むことで、アプリケーションに強いInforとインフラに強いAmazon Web Servicesの「いいとこ取り」でサービスを提供する。このほうが顧客にもメリットがあるとの判断だ。
逆に考えれば、Amazon Web Servicesにとってはより多くの優良なアプリケーションが、自社IaaSの上でサービス展開していることこそが他のIaaSベンダーに対する優位性になるだろう。