大手メーカー、証券会社、コンサルタント業務を経験し、現在、産業技術大学院大学で企業情報システムアーキテクチャを研究している南波幸雄氏。ここでは、PM Conference2008で行われた講演「情報システムプロジェクトの質をはかる ─ 建築に学ぶ設計監理と工程管理」の内容について紹介します。
情報システムプロジェクトを「はかる」
プロジェクトを「はかる(測る)」というテーマに関連した3つの話題からはじめます。
- WBS:Work Breakdown Structure
- EVM:Earned Value Management
- 工事進行基準
これらについて、それぞれみていきましょう。
WBS
WBS(Work Breakdown Structure)とは、プロジェクトで行う作業を細かいレベル(「タスク」と呼ぶ)に分割し、階層構造で示したものです。WBSの粒度は、管理レベルに合わせた大きさになり、WBSの数が多ければ統計的処理も可能です。しかし、進捗度はWBSで正確にはかれるのでしょうか。
現場でよくあるのは、消化工数などで評価していると、進捗度が95%まで達し、あと少しで完成というところでピタッと止まってしまうことです。この傾向は研究開発など、未知の領域に挑むプロジェクトに多くみられます。研究開発プロジェクトにおいては、ブレークスルーができないと次の段階へと進めないためです。
では、どうすればよいのか。詳細な進捗度を使用しないやり方があります。進捗度は「0%」か「100%」、つまり「完了」(進捗度100%)しない限り「未完了」(進捗度0%)であるとみなします。この方式では、作業に着手しているかどうか分かりません。もう1つの方式は、作業を始めたら「進捗度50%」、作業を終了したら「進捗度100%」とするやり方です。いずれの方式でも、WBSの数がある程度多ければ、プロジェクトの進捗を見ることができます。しかし、WBSの数が少ない場合には、いつ終わるか分からなくなってしまいます。
EVM
EVM(Earned Value Management)は、作業の進捗度を金額で表現したもので、コストとスケジュールの予実績管理を融合したものです。WBSとの関連で言えば、WBSの各作業を達成するためのコストを金額で表現したものがEVMです。
EVMで使われる主な指標として、PV、AC、EVがある。それぞれ以下のような意味を持ちます。
- PV(Planned Value):予定コスト(予定出来高)。予定コストの累計値=作業完了の累計値
- AC(Actual Cost):実績コスト。消費したコストの実績
- EV(Earned Value):出来高。完了した作業に予定していたコストの出来高
※なお、完成すればEV=PV=BAC(完成時の出来高総額)という等式が成り立つ。
EVMも作業中のタスクの進捗度に関しては、WBSと同様の問題を持っています。さらに問題なのは、WBSもEVMも対象となる情報システムが十分な「品質」を満たしているかどうかに関しては完璧な判断基準はない点です。
工事進行基準
この話は、プロジェクトをはかることができないと、企業として大変なことになるという1つの例です。
工事進行基準とは、工事収益総額、工事原価総額および決算日における工事進捗度を合理的に見積もり、これに応じて決算日ごとの工事収益および工事原価を認識する方法です。主に長期請負工事契約などで使われますが、会計業務的には工事だけに限定されません。ポイントは「発生主義」に基づいて収益を認識するという点です。つまり、目的物(商品)が未完成でも一定の基準を設けて代金の一部を売上げとして計上するのです。
一方、工事完成基準とは、工事が完成し、目的物の引渡しを行った時点で初めて、工事収益および工事原価を認識する方法です。国際会計基準との統一を目的として、2009年4月以降は、原則として工事進行基準が適用されます。ソフトウェアも対象になります。
工事進行基準においても、正しい損益計上を行うには、決算日における工事進捗度の各要素について、信頼性をもって見積もることができなければなりません。もし信頼性をもって見積もることができなければ、工事完成基準を適用することになりますが、これはプロジェクトマネジメントができていないことを意味し、世間的にはプロジェクトマネジメントもできない会社との烙印を押されてしまいます。