Tech Trendsが掲げた8つのトレンド
デロイトの「Tech Trends」は毎年発行されているものの、日本語版が出るのは今年が初めてである。デロイト トーマツ コンサルティング パートナー Japanテクノロジープラクティスリーダーの安井望氏は「これまでの『Tech Trends』の内容は日本企業にとって『遠い未来(海外は進んでいるが、まだうちには関係ない)』でした。しかし近年日本企業、特にグローバル企業では『近い将来(もうすぐ来る)』となり、初の日本語版発行に至りました」と話す。
近年ますますビジネスがグローバル化しており「テクノロジーが企業にもたらす影響は大きくなってきています」と安井氏は指摘する。そのテクノロジーには攻めのテクノロジーと守りのテクノロジーがあり、適切に両者をとらえ、うまくバランスをとることが重要だという。
攻めのテクノロジーとは企業競争力を生み出すための業務効率化やスピードアップがあり、新たな可能性や価値を生むためにある。安井氏曰く「劇的に変わってきているのはスピードです」。一方、守りのテクノロジーとは攻めの裏返しでもある。新たなテクノロジーを使えば新たなリスクが生まれてくる。例えばデジタルマーケティングの世界ではSNSを通じて外と積極的につながる必要があり、新たなチャンスが生まれている。その一方でサイバーセキュリティなどのリスクが高まってきている。つまり守りのテクノロジーとはリスクをいかに抑えるかのためのテクノロジーだ。安井氏は「守りつつ、攻めないと。バランスが重要です」と念を押す。
今年のTech Trendsが掲げたトレンドは8つ。詳しくは「Tech Trends 2015 日本語版レポート」をご覧いただきたい。
- CIO as chief integration officer :チーフ“インテグレーション”オフィサー としてのCIO
- API economyconomy:API デジタルエコノミー
- Ambient computing:アンビエトコピューティグ
- Dimensional marketing:ディメンショナルマーケテティング
- Software-defined everything:すべてがソフトウエア定義に
- Core renaissance:コアルネッサンス
- Amplified intelligence:知能増幅
-
IT worker of the futureworker:未来のITワーカー
これらのトレンドの中で日本企業が着目すべきポイントを安井氏は3つ挙げた。
CIOはITの「お守り役」から脱却し、新たな価値を創造するためのコーディネーターに
本来CIOとはChief Information Officer(最高情報責任者)とされるが、デロイトはCIOはいま「Chief Integration Officerへと役割が転換している」と指摘している。
近年ではテクノロジーをいかにビジネスに適用し、グローバルな競争力を高めていくかが課題だ。企業内のテクノロジーをいかに「インテグレーション」していくかがこれからのCIOに求められている。だからCIOのIはInfomationからIntegrationへと入れ替わるというわけだ。
しかしこうした役割転換は日本企業にはハードルが高いという。いくつか理由がある。1つは日本におけるCIOに求められる役割だ。もとからCIOは役割が曖昧で、CIOを任命しない企業も少なくない。いたとしても日本でCIOというと「ITの保守担当」というイメージがある。そのため「ITシステムを安定的に稼働させること」がミッションとなり、新しい挑戦には及び腰となりがち。CIOが新しいトレンドよりも安定稼働にばかり目を向けていると、新しい挑戦は難しい。
もう1つは縦割りであること。新しい価値を創造するために企業内のシステムをうまくコーディネートしていく必要がある。海外のデジタルマーケティングではCMOとCIOが連携して進めるところもある。しかし日本で縦割りが強いゆえに組織の枠を越えて連携するのは困難が伴う。ゆえにあるべき役割を果たすのは難しいというのだ。
とはいえ、ビジネスの必要性から考えるとそうも言ってもいられない。課題はCIOをどう変えていくか。補佐する人間をどう育てていくかだ。安井氏は「忘れてはならないのはCIOはコーディネーションする存在であり、必要に応じて外部も使いながらいかにイニシアチブをとっていくかです」と言う。
逆に言えば「どのテクノロジーを自社のテクノロジーと融合すれば新しい価値が生まれるのか」という視点がないとCIOという役割はふさわしくないということだ。もちろん日本のCIOでもきちんと本質をとらえて果たすべき役割を果たせている人もいる。あるいは他のCxOがCIOがすべき役割をカバーしている企業もある。いずれにしてもITのお守り役に専念してきた人だと、この役割を担うことはとてもハードルが高い。この厳しい現実をどう打開していくかが今後の日本企業にとって課題となるだろう。