今や企業のあらゆる業務がITシステムに依存している。ITシステムがなければ企業活動ができないことも多々あるだろう。そんな中、バックアップの重要性は十分に認識されているはずだ。しかし、実際に事故に遭わなければそのバックアップが活躍することはない。事故やそこからの復旧は、想像はできてもなかなか実体験することができない。
また、ノウハウの蓄積が難しいのも、このバックアップの領域だ。そして今や、バックアップにも様々なレベルがある。単にデータを複製しておくものから、システム全体のバックアップ、さらには遠隔地にバックアップをとる災害対策などだ。もちろん、レベルを上げればコストも高くなる。どの程度のコストと手間をかけてバックアップを行うべきなのか、判断は難しい。
そこで本シリーズでは、コンシューマから企業向けまで、幅広いバックアップソリューションを手がけているアクロニスの担当者に、最新のバックアップ事情や基本的な考え方について全3回にわたり話を聞いていく。前編の今回は、バックアップ入門として、アクロニス・ジャパン セールス エンジニア マネージャの佐藤匡史さんとリージョナル プロダクト マネージャの古舘與章さんに、企業を取り巻く最新バックアップ事情について話を聞いた。
システム全体をどう守るか?バックアップに対する企業の意識に変化が起きている
――ここ最近、企業でのバックアップに対する意識に変化はありますか?
古舘さん:企業にとって、“データの価値”が明らかに上がっています。そのため、データを失うことへの対策方法も変わっています。業種業態によっても異なりますが、もっとも厳しいところに追随する傾向が見て取れます。もちろん厳しいのは金融です。国内では製造業もかなり厳しい。大企業では、コストはかかっても災害対策サイトを持つのが当たり前です。また、中堅・中小企業でもデータの大事さは変わらないとの認識も出てきています。
佐藤さん:中小でも、今は顧客の個人情報を預かっている企業が増えています。特にネット系の会社では、規模は小さくても大量の個人情報を抱えている。当然それがなくなることは許されません。もう1つの傾向は、昔はシステムが利用しているデータをバックアップすれば良かった、ファイルやフォルダがきちんと保管されていれば良かったのですが、今は仮想化やクラウドが当たり前になり“システムそのもの”を保護する必要性がでてきました。たとえば、利用しているソフトウェアの定義ファイルが壊れると、システム復旧にすごく時間がかかる。ならば、データの入っているフォルダだけでなく、システム全体をバックアップすることになるのです。
――データだけを取っておいても復旧できないということですか?
佐藤さん:データだけをバックアップしていても、意味がなかったというシーンは増えています。昨日作ったデータがなくなったのであればそれを戻せばいいのですが、災害などを想定するとそれでは対処できません。「システム全体をどう守るか」を考えなければならないのです。
古舘さん:システム復元のイメージを持つことが大事です。実際、その必要性が認められつつあります。どういう形で、戻せるかを想定するのです。
佐藤さん:それと、システム復旧にかかる時間も重要ですね。求められる時間も変わっています。
古舘さん:今は、メールのデータもなくなると大騒ぎです。どれくらいの時間を遡れるのか、戻るデータのレベルは何か。システムごとに考える必要があります。
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震災がバックアップの考え方を見直すきっかけに
――いま企業はどんなきっかけで、バックアップの見直しをしていますか?
佐藤さん:もっとも大きな出来事はやはり東日本大震災です。企業規模に関わらず、自社システムが震災のような災害でどう影響を受けるのか。復旧にはどうすればいいかを考えるようになりました。ミッションクリティカルで高可用性が求められるシステムは、高いコストをかけても保護する。一方で、今やクラウド上のサービスも稼動率は99.98%くらいはあります。それを誰でも安価に使える。クラウドにデータを置けば、国境を越え自動でレプリケーションもしてくれます。
まずはファイル、フォルダを保険的にどこか遠隔地に保存する発想が出てきました。もう1つがシステムを復旧するためのバックアップです。システムを元通りにするバックアップが、震災以降は格段に増えています。昔は、データは保護してもシステム復旧までは考えていなかったのです。そのころシステム全体のバックアップの話をしても、便利だね、役立つね、くらいでした。
今のデータバックアップは、システム的に拘るべきところでしっかりとやる。たとえばデータベースのバックアップなどはシステム復旧とは別にやります。つまり、システム全体のバックアップもデータのバックアップも両方が大事なのです。
――システムバックアップが出てきて何か変わることはありますか?
佐藤さん:データバックアップでは、バックアップをどう取るかを細かく設計できても、データを戻すところから後のことは設計しにくかった。そのため、ほとんどの中小規模の企業では、とにかくデータさえあれば何とかなるだろうという感じでした。それに対し、システムバックアップのゴールは、過去のある時点にまるまる戻ることです。言い換えれば、いつに戻ればいいかを考えます。1秒たりとも遡ることが許されなければ、バックアップではなく別の方法が必要です。
どの顧客も「どのくらいに戻ればいいのか」と聞けば「直近です」と答えます。企業やシステムごとに、この直近の時間は異なります。1時間あるいは10分となると、バックアップで戻すのは難しいでしょう。システム全体を戻すとなると、1日くらいが1つの目処となります。したがって、1日1回システムバックアップを取る提案をすることが多くなります。これは、夜間などシステム負荷が低い時にバックアップを取る運用とも合います。
とはいえ、現状はサーバー性能も高く、バックアップツールの処理が本番システムに及ぼす影響もかなり少なくなっています。そのため、必ずしも夜間でなければだめと言うわけではありません。なんとなく昼間は気持ち悪い、何かあった際の責任が取れないと言った理由から夜間でとなるようです。実際のところ、たとえばPC性能が上がっているクライアントバックアップならば、5分に1回のシステムバックアップでもあまり影響はありません。5分間隔だと、システム変更も少なくバックアップを取るべきデータも小さくなりますから。
専任のシステム管理者以外でも、確実にバックアップが取れる仕組みが必要
――その他には、ここ最近でバックアップに対する意識として変わってきた点はありますか?
古舘さん:バックアップを取る人が変わってきました。アクロニスの顧客であれば中堅・中小企業のシステム管理者や大企業の各部門の情報システム担当者が中心です。それが最近では現場部門のアプリケーション利用者もバックアップを取りたい。つまり、必ずしもITリテラシーが高いとは言えないユーザーがバックアップを取りたいのです。そうなると重要なのが、バックアップが簡単に取れることです。本業の合間の作業となるので、速さも重要になります。
佐藤さん:もう1つ変化のきっかけに、NAS(Network Attached Storage)の効率的な利用ができるようになったことが挙げられます。テープが主流の時代には、ストレージにバックアップを保存する際はローカルストレージに置いていました。あるいは、RAID構成でバックアップ代わりにするとか。ところが同じ筐体にバックアップを取っていると、いざトラブルがあった際に復旧できないことも多々あるのです。
それが手軽に使えるNASが出てきたことで、別の場所にバックアップデータを置けるようになった。それまで自分でテープにバックアップを取っていた意識の高い人にとっては、テープ装置をNASに入れ替えるだけでいい。それでNASの上にバックアップデータがあれば安心となったのです。実際はそのデータでうまく復旧ができるかは別ですが。
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バックアップの種類は、「データバックアップ」と「システムバックアップ」に大別
――話が少し戻りますが、ここ最近のバックアップの種類にはどういったものがありますか?
佐藤さん:大きくは2つに分けられます。1つが「データバックアップ」です。こちらはファイルやフォルダといった単位でデータを保存します。もう1つが「システムバックアップ」です。こちらはシステム全体をバックアップします。そしてこの2つとは観点が異なりますが、仮想化環境のバックアップには皆さん悩むようです。もう1つキーワードとなっているのが「重複排除」です。どの方法かに関わらず、重複排除が使用されるケースが多くなっています。
最近これらに加え「クラウド」もバックアップでは重要です。クラウドが注目されるようになったのは震災の影響もありますが、「Amazon Glacier」の登場もあるでしょう。これで、お金をかけずにクラウドにデータを保存できる道が見えてきた。とはいえ実際には、それほど普及はしていませんが。バックアップの置き場所としては高い、怖いがかつてのクラウドでした。Glacierがそれを変えるきっかけとなったのは間違いないでしょう。とはいえ、容量単価は下がっていますがデータ転送量が高額になる課題はまだまだクラウドでは解決しきれていません。
もう1つの課題はパフォーマンスです。データ転送にどうしても時間がかかる。特に、トラブルがあってデータをクラウドからローカルに戻さなければならない際には、それなりに大きければかなりの時間がかかることを覚悟しなければなりません。
システムバックアップを検討すべき時がきている!
――どういう観点で、採用すべきバックアップ方法を見極めればいいですか?
佐藤さん:バックアップの主眼は、アプリケーションの保護に移っています。アプリケーションにフォーカスし、素早くデータを戻したければまずはデータのバックアップを行います。次のステップでシステム全体の復旧、災害対策などのBCP(事業継続計画)を考えます。現状は、1つのバックアップソフトですべての目的を満たすことは難しいでしょう。
古舘さん:1つにまとめたい要求があるのはアクロニスでも理解しています。そのため、すべてを1つでできるよう製品開発は進んでいます。その上で大事なのが“使い勝手”です。誰がバックアップを取るにせよ、ほとんどの人がバックアップを「面倒くさいもの」と思っています。やりたくない作業でも確実にバックアップが取れる必要があります。
ハイエンドなバックアップツールは、確かにきめ細かい制御ができます。それに比べると、アクロニスのツールは劣るところもあるでしょう。しかし、簡単に丸ごとシステムをバックアップするところでは負けていない。それと、今後は仮想化についても幅広くサポートする必要があります。VMwareやMicrosoft Hyper-Vはもちろん、Oracle DatabaseユーザーではOracle VMもかなり使われている。そういったものもすべてサポートしていないと、システムごとに別々のツールを使うことになってしまいます。
バックアップ市場においても、システムバックアップ市場の割合がどんどん増えています。きちんとシステム復旧ができるバックアップを取っている自信がないのなら、一度システムバックアップを検討してみるのがいいでしょう。
佐藤さん:これまでは自分たちが提供しているものが人のためになっているか不安になることもありました。それがここ最近、システムバックアップで復旧できて良かったという声をよく耳にするようになりました。バックアップが人のためになっているのが確実になってきたなと感じています。
【前編】(第1回目)のまとめ
今回はバックアップの最新動向について話を聞き、システムバックアップについて認識を新たにした。もちろん従来のデータバックアップも必要だ。しかしながら、それと合わせてシステム全体を保護し復旧できるようにする。これからは、こうした対策が当たり前になるだろう。
その際に重要となるのが、復旧のイメージを持つことだ。本番環境とまったく同じ物を素早く復旧するのか、あるいは代替的に仮想環境を用意して復旧するのか。さらには、どの時点まで遡り、復旧にかかる時間はどれくらいなのか。これらをきっちりと予測し、事前に手順をシミュレーションしておくことは必須だ。
もちろん、実際に災害なりが発生したことを想定し、システムを復旧するトレーニングも必要だろう。それが想定通りの結果となるのかを確かめることができれば、安心の備えとなるはずだ。バックアップは実際に事故なりに遭わないと必要性を認識するのが難しい。こうした想像力を持つことも重要となりそうだ。
次回はどんな方法でバックアップをすればいいのかなど、具体的なバックアップの課題とその解決方法について話を聞いていく予定だ。(次回の第2回目は10月前半頃に公開予定です!)
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