国内におけるIT投資の現状
IT先進国と一般に言われている我が国ではあるが、実は国際的に見るとその水準は必ずしも高いわけではない。1980年代以降、IT投資額そのものは緩やかに上昇を続けているものの、特に1990年代のバブル崩壊以降はその伸びは鈍化傾向にある。米国と比較すると現段階では大きな開きが出てきている(図1)。
国内のIT投資総額は、GDP対比で約3~4%の間で安定傾向にある(図2)。つまり総額自体はGDP全体の水準にとても左右されやすいといえる。
景気の上下と無関係に、一定比率でIT投資が行なわれているということは、社会活動を行なっていく上でこれが必要不可欠な要素であるとみなせるかもしれない。しかし、残念であるが現段階においては、IT投資が景気そのものを押し上げているような状況であるとはとても言えそうにない。
IT投資と産業全体としての生産性向上との関係については、日本は米国と比較すると明らかに相関関係が低いと言われている。特に、製造業よりもサービス産業等の非製造業においてその傾向は鮮明に出ている。国際競争力を持っている国内企業が製造業に集中していることを考えると、このグラフにもそれなりに説得力がある(図3)。
景気の変動に関わらず一定率の投資が行なわれていて、且つその投資が産業全体に対して、あまり大きな効果を上げていないということは、国内のIT投資のほとんどが、現在稼動している情報システムの維持管理といった、極めて後ろ向きな「守備的IT投資」に費やされているということを示しているのではないだろうか。
国内企業は、売上の増加や新規ビジネスの開発といった前向きな目的の実現をITに期待しているというよりは、業務コスト削減、業務プロセスの効率化等といった後ろ向きの目標達成について期待しているとよく言われる。
保守的な国民性ということが多少左右しているだろうが、ITに過度な期待を求めていない企業のスタンスが見え隠れしているように思える。
IT投資はそれなりの規模で行なってはいるが、そのほとんどが既存システムの運用保守を中心とした「守備的IT投資」である。
当然のことながら企業経営に対して大きな効果創出にはつながらない。IT投資への不信感が募り、さらにIT投資に後ろ向きになっていく。といったマイナス方向のスパイラルが、国内企業には渦巻いているといえる。
ワールドワイドで大きな業績をあげている企業では、皆、ITの持つ潜在的な力を最大限に活用しながら、国境を越えた新たな価値連鎖(バリューチェイン)の構築を行ない、さらに競争力を向上させている。
ITを単なるコスト要素としか考えず、今ある情報システムが大過なく動いてくれさえすればそれでいい、という状態で思考停止している国内企業との差は、このままではどんどん広がっていってしまうのではないだろうか。
ITに夢を持っていない、ITに期待をしていないという国内企業の現状をいかに打破し、「攻撃的IT投資」を増やしていくかが、現在直面している大きな問題である。解決へ向けたいくつかの提案を以下に述べていきたい。