従来のIT運用部門は、企業のビジネスに必要なITを安定して運用することが仕事だった。正確な業務を繰り返せばよいという受け身の姿勢になりがちで、担当者のモチベーションはなかなか上がらない。それは、開発部門や企画部門に比べて評価されにくく、コストや人が削減対象になっても以前と同様の運用品質を求められるなど、業務への理解不足に起因するものだ。 そうした運用部門を根本から改革し、“受け身の運用”からITサービスを提供する“攻めの運用”への転換を図ることが、IT運用のあるべき姿である。
ITをサービスとして提供する
企業にとってのITは、事業の目的ではなく、事業を展開するための手段である。したがってユーザーも、利用する側の視点に立ったITサービスの提供を求めている。ところが、IT部門には、サービスを提供するという感覚がない。
IT部門では、システムが問題なく安定稼働すればよいという考え方が今なお主流である。言い換えれば、IT部門はサービス提供者という意識が薄く、本来、ユーザーにとっては手段であるはずのITを稼働していれば目的が達せられていると思っている。
ITシステムとITサービスは、似ているように見えるものだが、実は非常に大きく異なっている。ITシステムは、ITを提供する側に視点があるのに対し、ITサービスは、ITを利用する側に視点がある。かつてのITというのは、利用する側もシステムを熟知した特定のユーザーだったが、今は誰でもITを使う。
だから、ITを提供する側は、どんな人が利用しているのかを知っておかなければ、結果的に良いサービスを提供することはできない。ITをサービスとして提供するという考え方をIT部門の運用担当者が理解していることが、ITサービスマネジメントの前提になるのだ。
サービスの優先順位を明確化する
利用する側の視点に立ったITサービスの提供が前提となるITサービスマネジメントだが、実際のシステムの作り方は、稼働保証を重視するのか、利用部門の満足度を重視するのかによって違ってくる。
システム担当者は、どのシステムも一様に安定稼働すればよいと考えがちだ。しかし、ユーザーから見れば、1秒でも止まっては困るシステムもあれば、丸1日止まっても問題のないシステムもある。
そこで必要になるのが、SLA(Service Level Agreement)という考え方である。従来の運用現場は、すべてのシステムを標準的なサービスレベルで作り上げていたが、ITサービスの世界では、ユーザーがどれだけのレベルのサービスを要求しているのかが重要になる。
レベルによって、サービス提供時間が分かれたり、復旧時間を明確にしたり、可用性に違いを持たせたりといった特色があってもよいという考え方である。 例えば、空港で利用されているシステムを考えてみよう。空港では、管制塔のアプリケーション、チェックインのアプリケーション、荷物運搬のアプリケーションなど、多種多様なアプリケーションが業務を支えている。
このうち、管制塔のアプリケーションが停止すれば、空港を閉鎖しなければならない事態になる。けれども、機内食配膳のアプリケーションが止まった場合、食事を提供する中長距離の旅客便は影響を受けるが、短距離便や貨物便は飛ばすことができるわけだ。
このように、本来はアプリケーション単位でサービスレベルがあるはずだが、どのシステムも同じレベルに考える従来の発想では、機内食配膳のアプリケーションが止まっただけですべてが停止する。これは極端な例だが、程度の差こそあっても、多くの企業で同様の事態が起きている。
そうした事態を起こさないためには、アプリケーションのサービスレベルを定め、優先順位を明確にする。これを考えることが、ITサービスマネジメントの重要な役目になる。

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増田 栄治(ますだ えいじ)
株式会社ビーエスピー取締役、専務執行役員(顧客サービス部担当、営業本部管掌、株式会社ビーエスピーソリューションズ代表取締役社長)、全能連認定マスター・マネジメント・コンサルタント。1977年、株式会社ソフトウェアエージーオブファーイースト入社。1988年より長年にわたってトップセールスマンとして活躍...
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