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ビジネスリーダーを育てる上司に知ってもらいたい大切なこと

『エンジニアがビジネスリーダーをめざすための10の法則』の著者に聞く

 エンジニアが備えるべき能力と、ビジネスリーダーやマネジメントに求められる能力は、実はまったく性質が異なっており、それゆえ多くの技術畑出身者は、リーダーシップを身につけようとする際にみな大変な苦労をしている。こうした問題意識から書かれたのが新刊『エンジニアがビジネスリーダーをめざすための10の法則』だ。「仮説で語りきれ。非難を恐れるな」「変更アレルギーを治療せよ」といった10項目ごとに、具体的な会話例を通じて、エンジニアが特に陥りがちな罠を分析。著者たちが長年の業務を通じて得てきた知見とはどのようなものなのか。その一端を、今回は著者であるベイカレント・コンサルティングの2名へのインタビューをもとに紹介していこう。

「自分に何ができるか」ではなく、「相手が何を求めているか」をまず引き出す

株式会社ベイカレント・コンサルティング コンサルティング&IT事業本部 コンサルタント 山口 大周氏

 「ビジネスとITは、今後ますます切っても切れない関係になってくる。特に最近のFinTechやIoT、AIといった分野では、技術者よりもむしろ戦略を考える立場であるマネジメントレベルのほうがITを重視し、高い価値を感じているように見受けられます。エンジニアが自らの市場価値を高めていこうと考えるなら、そこにどう関わっていくかを意識していくことが大切です」

 こう語るのは著者の一人、山口大周氏。これまで鉄道系企業や外資系生保会社などで、新規事業の戦略案件、大規模データベースの移行、ITガバナンスなどを手がけてきた人物だ。そこで実際に経験してきた内容が、本書の『守りから攻めへ転じよ』『自分の事を話すな』『自分の母親にもわかる言葉で話せ』といったパートに反映されているという。

株式会社ベイカレント・コンサルティング コンサルティング&IT事業本部 コンサルタント 武田 啓和氏

 同じパートを共同で担当したのが、武田啓和氏だ。大学で生物を学んだのち、まずは外資系医療機器会社で技術営業に従事。そこから「人々を笑顔にできる仕事、日本を元気にできるような仕事」という、自身の根源的な目標を追求して、コンサルタント業界に飛び込んできた。武田氏は自身の経験も踏まえ、理系出身者がハマりがちなポイントの一つとして、自分中心/技術偏重主義を挙げる。

 「理系的思考のみでプロジェクトに取り組む人は、まずはその時点で可能なことや自社のアセット、実績などをもとに『このような技術や機器があるから、こうしたことが実現できそうだ』と、自分中心、プロダクトアウトでの発想からスタートすることが多いです。そして調査に時間をかけ、提案書も完璧に仕上げたつもりなのに、薄い反応しか得られなかった、という方も多いのではないでしょうか。私もこれで何度も失敗を重ねたものですが、振り返ってみれば当然で、そもそもスタートのしかたが間違っていたのです」

 事業戦略や要件定義を練る際においても、システムを導入・構築する際も、一番重要なのは「相手が本当は何を求めているのか」を引き出すことだ。そこから「では、どうしたらいいか」という問いを解いていくことになる。研究開発に没頭するあまりコミュニケーションは二の次になってしまう理系出身者や、データ分析で十分だとデスクトップリサーチから始めるエンジニアは多いが、「まずはとにかく顧客と会って、話を聞いてみることだ」と武田氏は語る。

 「クライアントに何度も会いに行き、たくさん話を聞くことで初めて、課題を正しく設定できるようになります。それにより、相手の要求に刺さる解決法の提案も可能になるのです。かしこまって話していても本当の不満はなかなか出てきませんし、論理的に喋るだけでも不十分。ビジネスリーダーをめざす人は、まずは相手がどんな人間で、どんなことが好きか、といったところから始めて、信頼関係を築いていくようにしてみてください」

 同じ点を山口氏も強調し、加えて「相手の立場に立って、その人にわかるような話し方、伝え方をすることが大切だ」と説明する。

相手に理解できる表現でなければ、いくら話しても意味がない

 山口氏はコンサルティングにおいて、プロジェクトマネジメントや、ビジネス部門とIT部門間での調整といった案件を多く手がけているが、ここで顕著に現れる傾向がある。マネジメントが実現したいプロジェクトはおおむね、従来はなかった新しい内容であるケースが多い。発展成長を牽引する立場であるから、当然といえば当然だ。だが、それを実現し、運用・保守を行っていくことになるエンジニアは、製品の実現可能性や正確性、安定性など技術寄りの視点で物事をとらえ、過去の実績を重んじてリスクは極力避けようとする。つまり、それぞれの要求が異なってくるのだ。

 「両者の言い分をそのまま伝えても、方向性が異なりますから、互いに理解し合えるはずがありません。意外とここが、プロジェクト達成における最大級の障害となったりするのです。ですからコンサルタントとしては、ビジネス部門が望む実現内容やその理由をよく噛み砕き、ここだけは伝えておきたいということを抽出してIT部門に伝えたり、具体的な開発工程やUIデザインとビジネスとしてのシナリオを区別したりして、相手によって説明のしかたや話の粒度を変えていきます」

 同じ目標を共有しながら、それぞれの相手に合わせて伝わりやすい表現を追求すると、口頭での言い回しはもちろん、図表類を交えた視覚的な資料作成、書類の文字数などにまで意識が向くようになってくる、と山口氏。こうした姿勢は、ビジネスリーダーにもそのまま応用できるものといえるだろう。

 「ITが関わる現場では、横文字やカタカナ言葉もよく使われますが、聞く人によっては意味がよくわからなかったり、なんとなく理解した気になっている場合もありえます。また、日本語においても『検討する』『最適化する』といった表現は、具体的な目標が曖昧なため、次のアクションにつながりません。こうした歯切れの悪い表現は極力避けて、互いの認識に齟齬が発生しないように努めることも、ぜひ心がけてほしいところです」

 これからのビジネスにITテクノロジーは必須だが、技術やロジックに優れているだけではビジネスリーダーは務まらないということだ。ではどうすればいいのか、とはエンジニアならずとも疑問に思うところだろう。武田氏はその一助として「周囲の力を上手に借りてみては」とアドバイスする。

自分一人で物事を進めようとしないのが、真のリーダー

 武田氏がリーダーシップについて一番大切に考えているのは「自分一人で成果を挙げようとしない」ことだという。

 「エンジニアの中には、与えられた課題に対して、時間をかけてでもすべて自分で解決するのが正解だと考えている人が多いと思うのですが、そうではありません。自分にできないことがあれば周囲の人の力を借りて、スケジュールにも間に合わせていく。周りを上手に巻き込んでいける力こそが、本当のリーダーシップなのです」

 クライアントと話し合い、要望を十分にリサーチしたとしても、それを自分だけの狭い視野で分析してしまっては、以降の作業が無駄になってしまうかもしれない。そんな時は、自分の意見が本当に正しいかどうかを専門家に確認したり、上司に相談したりするほうが、結果的により短い時間で、よりニーズに沿った対応が可能になる。時間に余裕ができれば、自分の考えを検証していく姿勢を磨いたり、新たな課題に取り組んだりすることもしやすくなるだろう。

 また、他者の力を借りるという姿勢は、立場が変われば周囲に力を貸すということにもつながってくる。この場合、リーダーシップをとっているのは他者の方だ。つまり、こうしたリーダーシップとは、リーダーと呼ばれる立場の人だけではなく、チームのメンバーの一人ひとりが身につけるべきものなのである。

 山口氏は「エンジニアにとっては、今まで教えられてきた内容や学んできたスタイルと相反するところが多く、最初は戸惑うかもしれないが、本書などをきっかけに思考転換を図ってみてほしい」と応援する。

 「目先の業務にとどまることなく、クライアントや自社の発展について、自分がどのように参与していけるかを日々意識することから始めてみてください。それが成長への第一歩です。問題解決力や営業力(人間力)を兼ね備えたITのスペシャリストとなって、さまざまな現場で活躍される方が、どんどん登場することを願っています」

エンジニアがビジネスリーダーをめざすための10の法則

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エンジニアがビジネスリーダーをめざすための10の法則

著者:ベイカレント・コンサルティング
発売日:2016年7月20日(水)
価格:1,728(税込)

本書について

本書は、国内有数のコンサルティング会社であるベイカレントのコンサルタントの著者たちが、エンジニアから出発し、ITコンサルタント、戦略コンサルタント、または経営者としてキャリアを積んでいく中で経験した、思考転換や行動、ビジネスのスタイルの転換について解説した本です。

 

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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https://enterprisezine.jp/article/detail/8319 2016/08/01 15:21

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