AIや機械学習が普及することで、なくなるのではと言われているのが、コールセンターなどでの問い合わせ対応業務だ。とはいえ先日とある取材中に話題となったのだが、AIに代替できるのは数をこなす問い合わせ対応部分で、むしろ1人1人に丁寧に接するべきところは人が直接対応すべきで、その価値がどんどん高まるという。IBMなどのメッセージでも、Watsonはあくまでも人をサポートする立場。なのでコールセンターで人が対応する際により素早く正確に回答するためにWatsonが使われるのが基本。もちろん定型的なルーチンワークなどは、AIだけでこなす仕組みも今後はどんどん出てくるだろう。しかしながら、それが進むことでむしろ人間が丁寧に対処すべき仕事があぶり出されてくることにもなりそうだ。
Service Cloudのビジネスが伸びている
人の仕事を奪うか奪わないかにかかわらず、今やITベンダーの多くがAI、機械学習技術に熱を上げている。そんな1つがSalesforceだ。彼らは自分たちが提供してきたCRMやSFA、さらにはMarketing AutomationなどのSaaSの裏側でAI技術を活用している。それにより自社のサービスをより賢く便利にする。そのために技術を買収し、研究開発にも大きな投資をしている。
その結果から生まれるAI実装の機能を、Salesforceは「Einstein(アインシュタイン)」と呼んでいる。これは、Salesforceのサービスに、Einsteinという新しいAI機能が1つ加わったわけではない。Einsteinは、Salesforceが提供するAI、機械学習機のブランドネームだ。今後はあらゆるサービスの裏側でAI技術が活用されるようになり、それらの総称がEinsteinというわけだ。
そんな中、Salesforceでは恒例のバージョンアップとなる「Salesforce Spring 17」を先日発表した。このSpring 17では「Service Cloud」が1つの目玉だというのは、セールスフォース・ドットコム マーケティング本部プロダクトマーケティング シニアディレクターの御代茂樹氏だ。もともSFAやCRMのところから始まり、それがビジネスをリードしてきたSalesforceだが、ここにきて売上げ動向にも変化があり「SFAの伸びに対し、今一番伸びているのがService Cloudです」とのこと。Salesforceの大手顧客などでは、Sales Cloudの利用から始まり、Marketing Cloud、そしてService Cloudへと利用が広がる傾向があるそうだ。

これは、サービスサポートの領域において、顧客についての一貫した情報がないと対応できなくなってきていることに企業が気がつき始めたから。別の見方をすれば、顧客体験の改善を考えた際には素晴らしい製品やサービスを提供するよりも、サポートなどのサービスビジネスが重要だと認識し始めたということだろう。
クラウドで有用なデータを持っているからこそAIを活用できる
Spring '17では、このService Cloudに力を入れた結果の1つとして「Einstein Supervisor」という新機能を提供している。これは顧客に対しオムニチャネルでの対応を実現し、それを管理するためのものだ。管理者の視点でどれくらいどのチャネルにコンタクトがあったかなど、顧客からのコンタクトと対応の状況を簡単に把握することができる。Einstein Supervisorを使えば、対応状況をリアルタイムに可視化し、対応するエージェントの能力を考慮して業務量を最適に割り当てるなんてもこともできるようになる。
リアルタイムにどのエージェントがどのような対応しているかが分かり、どのような問い合わせが多いかの傾向もダッシュボードかるすぐに確認できる。エージェントがどの時間帯にどのようなチャネルで対応しているかがチェックでき、何か問題があれば該当箇所をドリルダウンして詳細の確認も可能だ。
機能の名前に「Einstein」という冠がついていることからも、ここではAI技術を活用する。どれくらいのコールが入っているのか、それに対しどのようなな対応をすれば良いかの推奨も行う。また問い合わせケースの自動分類なども、機械学習の技術を使って自動的に行われる。残念ながら、Spring '17の提供時点で、これらEinstein的なAI機能が全て実装されているわけではない。2017年の夏および冬あたりのタイミングからEinsteinの名前にふさわしい機能が順次追加されてくることになるようだ。
AI、機械学習の技術ではまだまだ「顔認識ができる」などが目立ち、正直ビジネスの中でどう活用してマネタイズできるかが見えにくいこともある。そんな中でSalesforceのEinsteinの優位性は、今回のService Cloudもそうだが、ビジネス現場ですぐに活用できる顧客からの問い合わせのような膨大なデータがすぐに手に入ることだろう。有益なビジネスデータがあれば、それにさまざまなAI手法を適用し新たな知見を生み出しやすい。それを自前のSaaS機能に反映するのも容易だろう。知見を得て機能を追加し、さらにデータを集めて検証するサイクルを、自分たちのクラウドの上で回すことができる。これは、すでに多くのユーザーを抱えるクラウド事業者ならではのAI活用のメリットだろう。
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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