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デニス・ゴーハンさん、業務アプリケーションって10年前より使いやすくなったんでしょうか

  2014/03/06 11:00

 3月10日および11日の2日間、東京・品川において「ガートナー エンタープライズ・アプリケーション&アーキテクチャサミット 2014」が開催されます。経営層やCIOといった、企業でITに関する決済権をもつ方々に向けたイベントで、主要テーマはその名の通りアプリケーション。最近ではアプリと聞くとスマホにインストールするタイプを想像しがちなのですが、もちろんそうではなくてエンタープライズ企業が使う業務アプリケーションのことです(まあ、最近ではスマホ用の業務アプリも増えてはきましたが)。クラウドやモバイル、ソーシャルというコンシューマ/エンタープライズの両方を巻き込んだここ数年のトレンドに対し、業務アプリケーションはどのように向き合ってきたのでしょうか。筆者は今回、イベントに合わせて来日する米ガートナーのトップアナリスト2名にメールでインタビューする機会を得ました。最初にご紹介するのは10日の基調講演にも登壇するデニス・ゴーハン(Dennis Gaughan)氏。同氏は、時代の流れに即応できる俊敏な経営をアプリケーションによって支援する「アプリケーションのペースレイヤ戦略」のスペシャリストとして有名な方です。本稿ではこのペースレイヤ戦略を中心にお話を伺いました。

 

 --ゴーハンさんはアプリケーションの専門家とお伺いしています。そのスペシャリストから見て、この10年、業務アプリケーションの経営における役割はどのように変わったと思われますか。

デニス・ゴーハン氏
デニス・ゴーハン氏

 ゴーハン氏:アプリケーションというものは過去においても現在においても、そして将来においても企業の経営にとって重要な存在です。ただこの10年に限っていえば、たしかにユニークな動きが見られます。10年前の業務アプリケーションといえば、社内だけで使われるものが大半でした。ところが現在は、社内の従業員にとどまらず、顧客やパートナー企業も利用することを前提にアプリケーションを構築する必要があります。もうひとつ特徴的なのは、業務ユーザや顧客の変化です。10年前に比べ、明らかにITネイティブな世代が増えており、彼らはITのもつインパクトや可能性を熟知しています。つまりアプリケーションとはビジネスをレバレッジする存在であり、そうでなければ業務アプリケーションとしてふさわしくないと認識しているわけです。現代のIT部門担当者はそうした変化を強く意識して業務アプリケーション環境を構築する必要があります。

 --そうした時代の変化に応じたアプリケーション戦略としてガートナーが提唱しているのが"ペースレイヤ戦略"と聞いていますが、いまひとつ言葉の意味がわかりません。あらためて、ペースレイヤ戦略とは何なのか、それが企業にどんなメリットをもたらすのかを教えていただけませんか。

 ゴーハン氏:政治や経済の動きとともに、ビジネスを取り巻く環境はものすごい速さで推移ししています。それは10年20年前とは比較できない速さでの変化です。10年前のビジネスの常識は、今ではもう通用しないのです。

 そうした時代に企業が生き残っていくためには、時代のスピードに応じた、俊敏な経営が求められます。必然的にIT部門もまた、ビジネスの変化に応じて共に変化していかなくてはなりません。もちろんそこには業務アプリケーションも含まれます。

 ところがここ数年、ビジネスの動きにITをキャッチアップさせることができずに苦しむ企業が少なくありません。その理由にはさまざまなものが考えられますが、大きな要因のひとつは"One Size Fits All"、ひとつのやり方ですべてに対応しようとするIT部門のアプローチです。たとえば、各国に支社をもつグローバル企業のERPも、50人程度の人事システムも同じやり方で管理しようとする旧来からの姿勢、こうしたふるいやり方はビジネス部門とIT部門の間に決定的な亀裂を生んでいるといってもいいでしょう。

 --それはつまり、ITがふるいためにせっかくのビジネスチャンスを棒に振っている企業が多いということでしょうか。

 ゴーハン氏:ITがふるいというよりは、ITに対するアプローチ、ITへの考え方が旧来のままという表現のほうが正しいでしょう。そしてその姿勢はビジネス部門よりもIT部門において顕著であることに問題があります。

 これを解決するひとつの有用な戦略がアプリケーションのペースレイヤ戦略です。先ほども申し上げたように、業務アプリケーションとは企業の現在・過去・未来に渡って重要な役割を果たす存在です。つまりアプリケーションを柔軟かつ迅速にビジネスの変化に対応させられれば、ITとビジネスの間の亀裂を埋めることが可能になります。これを実現するのがペースレイヤ戦略です。

 --レイヤということは、アプリケーションをいくつかの層に分けて考えるということでしょうか。

 ゴーハン氏:そうです。もう少し具体的にいえばビジネスとITを3つの論理的なレイヤに分けて、それぞれのレイヤでアプリケーションを適用していくというアプローチです。図を見ればおわかりのように、ペースレイヤ戦略は非常にシンプルなコンセプトの下に展開されます。

ガートナーの提唱するアプリケーションのペースレイヤ戦略の基本コンセプト。下から、「一般的/標準的な業務」に対応する記録システム(Systems of Record)、「(競合と異なる)ユニークなプロセス」に対応する差別化システム(Systems of Differentiation)、「(大きな優位性をもたらすであろう)イノベーション」に対応する革新システム(Systems of Innovation)
▲ガートナーの提唱するアプリケーションのペースレイヤ戦略の基本コンセプト。
下から、「一般的/標準的な業務」に対応する記録システム(Systems of Record)、
「(競合と異なる)ユニークなプロセス」に対応する差別化システム(Systems of Differentiation)、
「(大きな優位性をもたらすであろう)イノベーション」に対応する革新システム(Systems of Innovation)

 ひとくちにビジネスの変化といっても、すべてのオペレーションが同じ速度で変化するわけではありません。ペースレイヤ戦略ではビジネスのフェーズを大きく3つに分け、それぞれに応じたアプリケーションを、それぞれの変化のスピードに応じてアダプトすることを提唱しています。そもそも、ITとはビジネスをサポートする存在でなければならず、またビジネスのゴールというものは絶えず変化するものです。その変化にまずはアプリケーションから柔軟に対応していくためのアプローチ、それがペースレイヤ戦略のコンセプトです。

 --なるほど。つまり、以前に決めたビジネスのゴールに従ってシステムを組んだのだからもう変えられない、などというIT部門の言い訳は通らないと。考えてみればビジネスを支援するはずのITが、ビジネスのお荷物になってはたしかに意味がないですね。

 ゴーハン氏:我々はペースレイヤ戦略が、あらゆるステークホルダーに有効に働く戦略だと信じています。ビジネスがアジャイルでダイナミックな動きをするなら、ITもまた同じようにアジャイルでダイナミックであるべきです。ペースレイヤ戦略にしたがってアプリケーションポートフォリオを選択するようになれば、ビジネスのスピードから取り残されることもなく、大きなベネフィットを手にできる機会も増えるでしょう。

 --ペースレイヤ戦略を採るにあたって最初になすべきことは何でしょうか。

 ゴーハン氏:大事なことなので何度も繰り返しますが、IT部門が解決すべきなのはITの問題ではなく、ビジネスの課題を解決することです。したがってITリーダーがまずなすべきことは、ビジネスの課題をしっかり把握した上で、その課題と現状のITポートフォリオ(アプリケーション資産)をペースレイヤに沿って正しく関連付ける作業を行ってください。ビジネスではイノベーションが求められているのに、記録システムを改善しても効果はありません。

 --これまでゴーハンさんが見てきた企業の中で、ペースレイヤ戦略を採って成功した事例を具体的に教えてもらえませんか。

 ゴーハン氏:それはここではなく、今回のガートナーサミットに来たお客様に紹介するのであしからず。ただひとつだけいっておきましょう。アプリケーションのペースレイヤ戦略は、決して魔法の杖ではありません。これさえやればビジネスが絶対に成功するという代物ではないのです。しかし、自社のビジネスを正しく把握し、それを現状のITポートフォリオと正しくマッピングできれば、ビジネスにおいて大きな効果を導き出すことは自明です。

 --では続きはイベントでのお楽しみということで、最後にひとつだけアドバイスをお聞かせください。日本の企業においては、ビジネス部門とIT部門のギャップがなかなか埋まらず、ビジネス主導のアプリケーション活用が進まないという残念な状況が続いています。ITによる価値創造とはよく言われるのですが、あまり現実で見たことがありません。こうした現状を打破するためには、ITプロフェッショナルも業務ユーザも、それぞれどう変わるべきでしょうか、

 ゴーハン氏:そのギャップは何も日本の企業ユーザに限った話ではなく、世界中のエンタープライズ企業が抱える悩みです。しかし何度も申し上げたように、ビジネスの変化は速く、企業はその流れに抗うことはできません。ITも同様なのです。

 我々ガートナーはこうしたギャップの話をするとき、「世の中には"ITプロジェクト"というプロジェクトは存在しない。すべてのプロジェクトはビジネスプロジェクトである」といつも言っています。いまやITがかかわらないプロジェクトや業務など、ほとんど存在しないはずです。にもかかわらず、「これは我々(ビジネスユーザ)には関係ない。IT部門の仕事だから」とテクノロジをまったく理解しようとしないビジネスリーダーも問題ですし、テクノロジばかりにフォーカスしてビジネスを理解しようとしないITリーダーも問題です。互いが専門分野を活かしながらお互いに歩み寄る努力をする、双方のリーダーが意識的にキャップを埋めようとするとき、はじめてITによる価値創造への第一歩が踏み出せるのではないでしょうか。



著者プロフィール

  • 五味明子(ゴミ アキコ)

    IT系出版社で編集者としてキャリアを積んだのち、2011年からフリーランスライターとして活動中。フィールドワークはオープンソース、クラウドコンピューティング、データアナリティクスなどエンタープライズITが中心で海外カンファレンスの取材が多い。 Twitter(@g3akk)やFacebook(...

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