自治体と学校教育が抱えるITの問題点
――廉さんの現在の業務やミッションを教えてください。
現在、イーコーポレーションドットジェーピーの代表取締役社長をしています。弊社は地方自治体向けの業務システムを中心にコンサルティングや開発などをしています。個人では総務省電子政府推進員、佐賀県や青森市情報行政や情報教育関連でいくつか役職に就いています。
――自治体の行政業務ではどのようなITの課題がありますか?
いま、日本の市区町村は全国で約1700ほどあります。どこも同じ行政手続きをするのに、それぞれ別のITベンダーのシステムを独自に導入しています。この予算は日本全体で見れば年間で概ね4000億円にも上ります。10年前からの私の持論ですが、総務省が共同利用が可能なシステムを作り、全国の地方自治体に無料で配布することです。これでかなり経費削減できます。
――なぜ、できないのでしょうか?
まったく動きがないわけではありません。「自治体クラウド」と言う名前で少しずつ前に進んでいますが、本格的な取り組みということではまだ先だという意味です。
なかなか進まない理由は、ITベンダー、自治体、総務省、どの立場にしても自分に直接もたらすメリットが少ないからでしょうね。それで及び腰になり「技術的に可能なのか?」と懸念を示します。それで私たちは、可能であることを示すために、こうしたシステムの開発に挑戦しています。もちろん、政府や各省庁、ベンダーの方々の今後の取り組みにも期待していますし、私自身もこれまで以上に努力していかねばなりません。
――廉さんは、佐賀県の教育情報化にも携わっていますね。
私の関心事は一貫して「公共分野の情報化」です。最初は行政、次に教育、そして金融。ゆくゆくは医療です。優先順位をつけてやっていきます。
教育情報化に関してですが、いま佐賀県では、多忙な教職員の事務負担を軽減するため校務システムの開発を行い、教員へのICT教育を進め、県立高校や特別支援学校すべての教室に電子黒板を設置し、現在は高校一年生だけですが、今後3年間にかけて、すべての生徒にタブレットパソコンと電子教科書を配布する、という取り組みを進めています。今、これをすべてやっているのは佐賀県だけかと思います。他の都道府県に先駆けて「教育の情報化」を積極的に推進していますので、佐賀県での取り組みは各方面にインパクトを与えています。多くのご賛同もいただきますが、反面いろいろとご批判もいただきます。
日本は、子どもへの教育投資があまりにも少ないように感じます。また、この面については韓国とは対照的です。ただし、韓国はあまりにも行きすぎました。一般家庭でも年収の半分は子どもの教育費に充てているくらいです。子どもの教育や学歴が急速に伸びたのはいいのですが、受けいれる側が追いついていません。いま韓国の青年の失業率は半端ない状態です。
――教育に投資しないとどのような問題が起こりますか?
貧富の差につながり、格差が固定化されます。教育への投資の目的は、「教育の機会を平等に与えること」です。機会平等が失われると、ゆくゆくは結果が平等でなくなります。
――廉さんご自身も工学の博士号を取得されました。
17年前に私が日本に移住したときの最終学歴は短大卒でした。博士号を修得するため6年前に日本の大学院に入学しました。ちょうど今年「学術博士」となりました。勉強には終わりがありません。職業柄、常に新しいことを学ばないと、お客様にも最新情報を提供できないからです。また、日本にいると、どの学校出身、どの会社出身、どの地方出身などで評価されるのではなく、1人の人間、韓国人として純粋に私個人の能力を評価してもらえるのが嬉しいですね。