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紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得

頓挫したプロジェクトの責任はどこにあるのか―ユーザが協力義務を怠ったとされる場合について

 今回は、久しぶりに、「システム開発におけるユーザの協力義務」についてお話ししてみたいと思います。システム開発において、ユーザは単なるお客様ではありません。新しく作るシステムの要件を十分な詳細さと正確さをもって、しかるべき時期までに定義し、プロジェクトの最終局面では、できあがったシステムが、要件通りにできているか検証することは、ユーザの義務です。また、システム開発の中盤においても、ベンダが必要とする資料や情報をタイムリーに提供したり、ベンダとの会議には、しかるべき人間を出席させて、様々な判断をしたりすることも求められます。 こうしたユーザの協力義務については、この連載の第一回、第二回でもお話しした通り、裁判所の判決でも明確に述べられており、上述したようなこと義務をユーザが怠ったために頓挫したプロジェクトの責任は、その多くがユーザに求められるという、お話をしたかと思います。

ユーザの協力義務違反は、ベンダの得になる?

 さて、今回は、ユーザが協力義務を怠った場合に発生する債権や債務について述べた判決を見つけましたので、ご説明したいと思います。「ユーザが悪いなら、失敗によって発生した損害は、ユーザ持ちでしょ。」 とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、そもそも、ここでいう「発生した損害」とは、どのように定義されるものなのでしょうか。

 ちょっと考えてみてください。例えば、10ヶ月で毎月、100万円分の作業を行うプロジェクトが5ヶ月で頓挫したとします。仮に、この失敗の原因が、100% ユーザの協力義務違反だったとき、ベンダがユーザに請求できるのは、5ヶ月分の500万円でしょうか?それとも、全額の1000万円でしょうか?もしも、全額もらえるなら、ベンダは、残りの5ヶ月、別の仕事をして、別途500万円を得ることができ、結果的には10ヶ月で1500万円を手にすることになりますが、そういうものなのでしょうか?

 こうしたことについて、裁判所が下した判例を見てみたいと思います。システム開発やプロジェクト管理のお話というより、ちょっと法律に偏った話題になってしまいますが、請負契約締結やプロジェクト中断の際には、知っておくべきことかとも思いますので、読んでみてください。

 前置きが長くなりましたが、まずは、判例のご紹介からです。

ユーザの協力義務違反が争われた裁判の例

 (東京地方裁判所 平成23年10月20日判決より抜粋・要約)

 ある語学学校(以下 ユーザ)が、ソフトウェアベンダ(以下 ベンダ) にe-ラーニングシステムの開発を委託したが、プロジェクトは難航し、ユーザは、ベンダの債務不履行による請負契約の解除と原状回復請求、損害賠償請求合わせて2800万円の支払いを求める訴訟を提起した。一方、ベンダは、プロジェクトの失敗は、ユーザの協力義務違反にあるとして、報酬残額の請求と損害賠償 (実は、ユーザが破産していたため破産債権確定) を求める反訴を提起した。

 ※ ( ) 内は、筆者の加筆

 この開発では、どうやらユーザが、仕様の確定と資料の提供を行わなかったようで、それが原因でプロジェクトが破綻したということが認められました。したがって、論ずべき争点は、ベンダ側の請求ということになります。そして、判例抜粋には書いていませんが、このベンダは、プロジェクトの頓挫後、本来、この開発に費やすべき期間に、他の仕事を行っています。これが、損害賠償の相殺の対象になるのかも問題となりました。ちょっと整理をしてみましょう。

 << 問題の整理>>
  1. ベンダの全額請求

 プロジェクトは途中で終わっていますが、ベンダは、当初契約通りの全額を請求しています。これは、妥当でしょうか?

 2. この債務から解放されたためにベンダが得た利益

 上述した通り、この期間にベンダが別の仕事で稼いだお金については、どう考えるのでしょうか?損害賠償額の相殺対象となるでしょうか?また、そもそも、ベンダが稼いだお金をいくらと見積もるのでしょうか。

次のページ
ベンダの全額請求

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この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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