Watson導入進み、45分野のソリューション
はじめに登壇した日本IBM社長のエリー・キーナン氏は、Watsonの導入が伸びており、350社以上が導入していることを紹介。ヘルスケアの分野では、米国で増大している糖尿病の発作予測が、89%の精度になるなどの効果をあげたという。また「全米オープンテニス(USオープン)」では、2.78億件に及ぶサイバー攻撃を監視して、大会を成功に導くとともに、過去12年間の試合の記録データを蓄積しているという。「ソフトバンク球団でもWatsonを使って欲しい」と語りソフトバンクの宮内社長に話をつないだ。
成長戦略と構造改革のためにAIを— ソフトバンク宮内社長
続いて登壇したソフトバンクの宮内社長は「球団ではまだWatsonは使っていないが来季ぐらいから検討したい」と答えた。ソフトバンクはIBMとの昨年からの協業で、すでに45の分野のソリューションパッケージを開発している。
企業が成長するための条件は「成長戦略」と「構造改革」が必要と語る宮内社長。これまでのITは構造改革に貢献してきたが、これからは成長戦略のために必要だという。そのためには「現在行なっている事業をテクノロジーで再定義すること」を提唱。ソフトバンクも、これまでのコア事業であった通信事業にとどまらず事業の再定義をおこなっており、Uberへの巨額の出資や、みずほ銀行とのレンディング事業などはその一貫だという。またシェアリングエコノミーの進展の先には、利用する個人ユーザーも評価される「スコアリング・エコノミー」が来るという。
ソフトバンクの1兆円におよぶビジョンファンドは、こうした革新的なビジネス分野に投入されるという。
ソフトバンクでは現在40あまりのAIによる業務の構造改革を進めている。「AIの導入によってこれまでの業務が半分のリソースで可能になる」と宮内社長は語る。具体的な事例としては「見積書作成」などの提携業務だ。ソフトバンクでは、1日750件の見積もりの業務が発生していたが、営業からのメールをWatsonが自動的に読み取り見積書を作成することで、大幅な時間が削減されたという。また人事部門では採用部門への募集者からのメールの読み取りの自動化により、二人分のスタッフに相当する業務が軽減されている。こうした改革の提案は現場の業務担当者から行われたという。「AIが業務を奪うのではなく、AIにより個人の能力が強化された」(宮内社長)と言う。
AIによる営業代行もすでに現実化
人材サービス業ではコーディネータや営業の役割が重要。この業務をAI化したのがフォーラムエンジニアリングだ。技術者派遣などを行う同社の取締役事業部長 竹内政博氏は、人材マッチングへのWatsonの活用例「コグニティブエージェント=cog」を紹介した。紹介マッチングに要した人員、時間などのコストを6分の1に短縮し、顧客企業の採用の意思決定も2週間から1週間に半減したという。
「cog」の特色は会話エンジンであり、WatsonのカンバセーションAPIを活用し独自のコーバス(辞書)を作成、またスキルとのマッチングの分析や予算達成のための解析のアルゴリズムにも、Watsonを活用したという。また営業マンのように人材紹介のプレゼンをおこない、また採用を躊躇している担当者には「この人は貴重な人材ですよ」と語りかけるなど、営業のエージェントとして実用化されている。
Watsonのトライアルを無償化
続いて、IBM 取締役専務執行役員 の三澤智光氏が登壇。「AIは二種類ある。日常のためのAIと仕事のためのAI。Siriは優秀だが、私たちの仕事の情報を読み込ませることは出来ない。WatsonはビジネスのためのAIだ」と語る。
ビジネスAIのために必要な要件は「紹介」「応答・検索」「発見」であると三澤氏は言う。医療情報や気象情報など、外部の情報と各社の情報を組み合わせることで、知見を導出することができるため、ユーザー企業は必ずしもビッグデータを用意する必要はない。Watsonの強みは、クラウドからアプリケーションまでを統合し、各種のAPIによりソリューションとしてまとめ上げることだ。機械学習やディープラーニングのサービス提供とは根本的に違うと三澤氏は言う。また、「IBMはユーザー企業がAIで活用したデータを勝手に流用することはない。他社の利用規約は決してそうなっていません」(三澤氏)と他社との違いを強調した。
またWatsonの無料化の報道について、「新聞で無料化という記事が出ましたが、残念ながらタダにはなりません。そではなく、無期限に無料でテストできるサービスを提供します。」と述べ、無償のトライアルサービス「IBM Cloudライト・アカウント」を発表した。
従来からIBMは無償トライアルを提供してきたが、クレジットカード情報が必要で30日間の期間が限定されてきた。今回の「IBM Cloudライト・アカウント 」はWatson APIをはじめとするサービスやAPI、カタログなどのシステム環境が、無期限に利用可能となる。
オートバックスはタイヤ診断のスマホアプリにWatsonを利用
中古車販売のオートバックスは、タイヤの交換修理のためのスマートフォンアプリの診断サービスにWatsonを活用している。自動車事故の原因の35%が日常の点検整備の不備によるもの。車の専門知識がない人でも気軽に来店できるように、スマホアプリでタイヤを撮影することで、タイヤの溝の摩耗状況を診断し、交換が必要な場合は来店を促す。
今後は、診断情報から、購買履歴、走行情報に応じた適合商品の推奨などのサービスをおこなうと言う。「ライフスタイルの変化に応じた最もわかりやすいWatson活用サービス」だとオートバックスセブンの常務執行役員の佐々木勝氏は語った。
続いてIBMの執行役員ワトソン事業部長の吉崎敏文氏、ソフトバンク執行役員本部長の藤長国浩氏が登壇し、アスクルの通販サイトでの自然言語処理によるオペレータとしての活用、不動産会社の大京でのヘルプデスクへの問い合わせのためのチャットボットサービスの事例などを紹介した。
API活用推進が目的
基調講演の後、プレス向けに「IBM Cloud ライト・アカウント」に関する会見が行われた。「ライト・アカウントは多くのユーザーからの日本語APIを触ってみたいという要望に応えるもの」と三澤取締役は語った。また、Google、Amazonのように「ユーザーデータを収集することで精度向上を狙う」ことが無償化の目的ではないと言明。IBMが顧客データを利用することはないことを再度強調し、目的はあくまでユーザーやデベロッパーへのAPIの活用推進であると述べた。
またWatsonのライト・アカウントの利用限度については「メモリサイズやAPIをコールする回数の制限などはある」がその範囲であれば業務適用も可能だとも。これについては、11月に詳細を発表するという。