2017年の世界AR/VR関連市場支出は91.2億ドルと予測
最新の「Worldwide Semiannual Augmented and Virtual Reality Spending Guide」によると、AR/VRのハードウェア、ソフトウェアおよび関連サービスを合計した支出額は2017年の91.2億ドルから、2018年には前年比95%増の178億ドルに、2021年には1,593億ドルに達する見通しで、2016年から2021年にかけての年間平均成長率(CAGR:Compound Annual Growth Rate)は98.8%と高い成長が見込まれる。
「VRは今後12~18か月、コンシューマー市場とビジネス市場双方のユースケースが牽引役となり、高いレベルの成長が続くとみられる。現在、プロダクトデザインから小売業における従業員訓練まで、多くの潜在的な応用可能性がこの技術には見込まれることから、企業はこの技術の利用に食指を動かし始めている」と、IDCのデバイス アンド AR/VRのプログラムバイスプレジデントであるトム・マイネリ氏は述べている。
続けて、「その一方でAR市場はスマートフォンやタブレットによるモバイルARが消費者からの注目を集めており、これはより手軽なレベルでのARを実現するだろう。そして、ARヘッドマウントディスプレイはまずはビジネスユーザー向けに販売されることになる」と述べている。
ビジネス利用では小売・オンライン店舗での展示が最大のユースケースに
2018年、コンシューマー向け市場は世界合計で68億ドルになるとみられる。2021年までの予測期間中、ゲームはコンシューマー向け市場では支配的なユースケースとなり、コンシューマー市場全体でのAR/VR支出の2016年~2021年のCAGRは45.2%、2021年には総支出が200億ドルを超えると推定される。
ビジネス利用でのユースケースは、分野や産業ごとに大きく異なる。分野別では流通・サービス分野の支出が最も多く、次いで製造・資源エネルギー分野の支出が多いと見込まれ、金額面ではこの2分野が2021年までAR/VRのビジネス利用を牽引するとみられる。
流通・サービス分野に関しては、小売店舗での展示ならびにオンライン店舗での展示は、2018年には合計9.5億ドルの支出が見込まれる最大のユースケースになり、特にオンライン店舗での展示は2021年までの5年間でCAGR225%という際立った成長を実現するとみられる。
他方、製造・資源エネルギー分野では、現場での組立と安全管理、およびプロセス製造のトレーニングと設備のメンテナンスが有力なユースケースになるとみられる。その他、公共インフラ分野では、インフラ整備と政府によるトレーニングが2018年における最大のユースケースになる。
「企業にとっては、VRを顧客向けと社内向けの両方で採用する準備が整いつつある」とIDCのカスタマー インサイト&アナリシスのリサーチディレクターであるマーカス・トーチャ氏は述べている。
また、「これらの産業分野のニーズを満たす商用レベルのハードウェアとアプリケーションが開発される機運は大いに盛り上がっている。その一方で、スマートフォンベースのモバイルARが短期的には熱狂をもって受け容れられる可能性が高く、多くの企業が既にARのアプリとサービスを利用している。これらのアプリやサービスの中には役立つものもあればそうでないものもあるが、今後12~18か月の間に多くの開発者がARの潜在力を理解し始める事になるだろうと我々は考えている」と述べている。
日本の成長見込みは低水準。教育分野での利用が課題
地域別では、2018年最も支出が多いと予測されるのは米国(64億ドル)、次いで日本を除くアジア太平洋地域(51億ドル)、ヨーロッパ・中東・アフリカ地域(30億ドル)となる。米国は2021年まで成長が加速し、2020年には成長率がピークに達すると見込まれている。一方、日本を除くアジア太平洋地域は2021年を前に支出の伸びがやや減速すると予測される。その他、カナダ(CAGR 139.9%)、中・東欧(同113.5%)の2地域が100%超のCAGRを見込んでいます。他方、日本はCAGR 36.5%と低い成長率にとどまる見込みだ。
世界に比べ全般に成長が見劣りすると予測される日本だが、組立製造やプロセス製造分野での2017年~2021年のCAGRは70%を超え見通しは堅調。その一方で、教育分野での利用の成長率が他の地域と比較し著しく低く、これが今後のユースケース拡大と成長の阻害要因の1つとなっている。
「ユーザー体験の言語による伝達が難しいAR/VRは、体験者の裾野をいかにして広げるかが最初の課題であることは明らかである」とIDC Japan PC,携帯端末&クライアントソリューション シニアマーケットアナリストの菅原啓氏は述べている。さらに「その意味ではAR/VRの利用拡大に果たす教育の役割は極めて大きいと言え、今後の教育現場でのAR/VRに代表される先進技術の積極的採用がビジネスにおいてもデジタルトランスフォーメーションの鍵になるとも言える」と提言している。
今回の発表は、IDCが発行する「Worldwide Semiannual Augmented and Virtual Reality Spending Guide」にその詳細が報告されている。また、日本国内のAR/VRのビジネス利用の動向については、12月発行予定の「2017年 国内AR/VR市場 企業ユーザー調査」にその詳細が日本語で報告される。
「Worldwide Semiannual Augmented and Virtual Reality Spending Guide」は、世界の地域別、産業分野別、ユースケース別、テクノロジー別に、AR/VR関連の事業機会を定量化して提供している。支出額データは、8つの地域における12の産業分野について、26のユースケース、11のテクノロジーカテゴリーに分類している。また、「Spending Guide」のデータは、業界の他の調査とは異なり、IT意思決定者がAR/VR支出について、それぞれの業界ごとの今日および将来の展望を理解するにあたって、包括的な支出ガイドとして活用できることを目的として発行されている。