IDCでは、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を振り返ると、第2のプラットフォーム(クライアント/サーバーシステム)からの移行は2007年に始まったとみており、2015年まではその試行期間にあるとしている。現在、IT産業は、飛躍的にデジタルイノベーションを加速、拡大し、ITと新たなビジネスモデルを用いて構築される第3のプラットフォーム時代の第2章である「イノベーションの拡大」の時期にあるという。
2017年から2020年を先見するとデジタルトランスフォーメーション(DX)を通じて、企業が「デジタルネイティブ企業(DNE)」になるために変革を続けることで、組織と産業は破壊され、再構築されるという。
IDCでは、DXを「企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォームを利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」と定義し、「すべての企業幹部や従業員が考え行動する様式がデジタルトランスフォーメーション(DX)を最優先にする(DXファーストになる)こと」をDNEと定義している。
企業が生き残るための鍵は、DXを実装する第3のプラットフォーム上のデジタルイノベーションプラットフォームの構築において、開発者とイノベーターのコミュニティを創生し、分散化や特化が進むクラウド2.0、あらゆるエンタープライズアプリケーションでAIが使用されるパーベイシブAI、マイクロサービスやイベント駆動型のクラウドファンクションズを使ったハイパーアジャイルアプリケーション、大規模で分散した信頼性基盤としてのブロックチェーン、音声やAR/VRなど多様なヒューマンデジタルインターフェースといったITを強力に生かせるかにかかっているという。
以下に2018年にIDCのアナリストが予測する、ITサプライヤーが注目すべき国内IT市場におけるTop 10 Predictionsの概要を提示する。
1. デジタルネイティブ企業が出現し、デジタルの文化を持つベンチャー企業と組んだ
新ビジネスの創出が始まる
2017年はDXの重要性が認知され、国内大手企業においてデジタルネイティブ企業(DNE)へのトランスフォーメーションを目指す行動が開始されたエポックの年であった。まず、メガバンクでは3月期の決算資料で、DXへの本格的な取り組みを大手3都市銀行が発表した。
DXを推進する組織とCDO(Chief Digital Officer)または相当職が設置され、デジタルビジネスに向けた活動がスタートした。さらに三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は7月末にFinTechの開発、販売会社としてイノベーションラボを発展させた「Japan Digital Design」を10月に設立すると発表した。
また、MUFGは同じく7月にBlue Lab社の設立を発表し、損害保険会社、総合商社、農林中央金庫などの大手企業が参画する。いずれも、他業種企業による決済サービスであるSuica、Tカード、WAON(ワオン)、nanaco(ナナコ)、アマゾンなどから、一般消費者の決済プラットフォームの主導権を銀行側に取り戻す狙いがあるとみられる。
DXでは新しいビジネスモデルによって事業の拡大を図ることが目的の1つになっている。IDCではDXの新ビジネスモデルを「FoC:Future of Commerce、コマースの未来)」モデルと呼んでいる。従量課金制でサービスを提供する「シェアリングエコノミー(Sharing Economy)」、データそのものを販売するのではなく、データを利用して得られる価値をサービスとして提供する「データ資本(Data Capitalization)」、収益だけでなく損失もシェアする「リスク/リワードシェア(Risk/Reward Sharing)」といったビジネスモデルがFoCの例として挙げられる。
FoCを実現するために、既存の事業を離れて新しいことを行おうとしたときには、IoT、モバイル、クラウド、AIのように複数の技術を組み合わせないと解を生み出せない。クラウドだけを見ても、アマゾンのAWSだけでなく、マイクロソフト、グーグル、セールスフォース・ドットコム、オラクル、富士通、IBM、NTTコミュニケーションズなどの各社のマルチクラウドに精通していることが求められる。
DXファーストの大企業と組んで新しいビジネスを創出していくベンチャー企業のように、既存の縦割りの事業部の軸を超えた組み合せの提案を行う能力が、DXを企業に提案するITサプライヤーに今求められていると言えるであろう。
2. 企業の成長と存続を左右するDXへの支援能力が、ITサプライヤーの選択基準になる
企業がDXを通じて、ビジネスモデルを変革し、顧客や消費者だけでなく、従業員や外部パートナーも含め、エコシステムを形成するステークホルダーに新たな体験価値を提供し、DXエコノミーで経済的な成功を収めるためには、経営トップがリーダーシップを発揮し、全社的な変革のビジョンとゴールを示し、それにコミット(確約)することが不可欠である。
目指すべき姿が漠然としている限り、現実的に実行可能なプランを具体化することはできない。しかしながら、多くの企業にとって、リーダーシップ変革とオムニエクスペリエンス変革の強化は大きな課題である。
こうした課題を乗り越えるために、企業のパートナー選定に変化が生じている。ITサプライヤーに求められる役割は、もはやRFP(Request For Proposal)を前提とした請負開発や、クラウドやAI、IoTなどの個別技術の提供ではなく、企業がDNEにシフトするためのプロアクティブな支援であり、そのために必要な全体ソリューションの提供である。
DXは、企業のIT投資の在り方それ自体に影響を及ぼしている。メガバンクをはじめとして、自動車業界や消費財メーカー、小売、運輸など、多くの産業分野でDXに向けた取り組みが始まっているが、IT部門ではなく、事業部門やDXのための専任組織が予算を持ち、推進するケースも少なくはない。
IT導入のアプローチにも変化が見られる。従来の業務系システムでは、ウォーターフォール開発によって、手戻りを防ぐため、念入りに要件定義を行い、オンプレミスでシステムの構築を進めるケースが一般的であるが、DXのためのシステムでは、アジャイル開発の手法によって、要件の変更に柔軟に対応しながら、クラウド上で反復開発を行うことが多い。ITサプライヤーは、こうした外部環境の変化を認識し、内部の変革を急ぐ必要がある。
3. 労働生産性の向上や柔軟な働き方の必要性が企業で高まり、
働き方改革に向けたICT市場が成長する
安倍内閣が一億総活躍推進室を2015年10月に設立し、働き方改革に乗り出してから3年目に突入した。政府は、長時間労働、労働人口の減少、労働生産性、非正規雇用、ダイバーシティ、子育て/介護などさまざまな問題を働き方改革の議題として挙げている。
IDCが調査したところ、企業では働き方改革における課題の上位2項目として、残業時間の削減と労働生産性の向上を挙げている。残業時間の問題については、残業時間の可視化、残業許可制度の厳密化、残業時間に基づいた個別指導などさまざまな取り組みが企業で実行されている。
一方で、労働生産性については、ICTを導入する場合でも単体のアプリケーションを導入するなどICTの活用が限定的であることから、生産性の向上のためにICTが今後活用される余地が大きいとIDCではみている。
IDCは、国内働き方改革ICT市場規模(支出額ベース)は2016年に1兆8,210億円に達したとみている。さらに、2016年~2021年の年間平均成長率(CAGR:Compound Annual Growth Rate)は7.9%で推移し、2021年には2兆6,622億円に拡大すると予測する。
現状では、トップのリーダーシップと明確な目標に基づき、目標達成に必要なICTツールの判別、さらに導入までのマイルストーンを描けている企業は限られている。しかし、働き方改革の一環で生産性の向上を目指す企業は非常に多い。働き方改革はICT市場拡大の牽引役の1つとして非常に大きな可能性を秘めていると言える。
この状況の中、ITサプライヤーはICTツールを提供するだけでなく、企業の働き方改革への動機と目的を理解し、具体的なICTツールの採用へ導く道先案内人という重要な役目が期待されている。
4. 発展が続くクラウドは第2世代(クラウド2.0)に進化し、IT変革が加速する
2018年以降の国内クラウド市場は「従来型ITからの移行」「DXの基盤」を両輪として高い成長を継続し、2018年の同市場の支出額規模は2兆円を超えるとIDCは予測している。クラウドは多様なビジネスニーズに対応するために発展しており、第2世代となるクラウド2.0へと進化を始めたとIDCはみている。
クラウド2.0とは、以下に挙げる要素を統合した概念である。
- Trusted(高信頼)
- Concentrated(寡占化)
- Intelligent(インテリジェント)
-
Distributed(分散)
- Hybrid Cloud(ハイブリッドクラウド)
- Hyperagile Applications(ハイパーアジャイルアプリケーション)
- DevOps/Everyone a Developer(DevOps/誰もが開発者)
クラウド2.0において、最も注視すべき動向が「分散」と、それに関連して発展する「ハイブリッドクラウド」「ハイパーアジャイルアプリケーション」「DevOps/誰もが開発者」である。これらは、アプリケーションアーキテクチャや開発方法論、ITバイヤーの組織体制やスキルなどを根本から変える動向であり、IT変革を加速するものである。
なお、ここで挙げている「分散」とは複数の事象を総称している。そのうち、ここでは代表的な3つの事象について説明する。1番目は、ワークロードごとに複数のクラウドを利用するマルチクラウドの一般化と、複数のクラウドを統合的に運用、管理するハイブリッドクラウドへの進化である。2番目はクラウドの分散配備である。この分散配備には、パブリッククラウド、プライベートクラウドといった「データセンター」の区分だけでなく、IoTゲートウェイといったエッジコンピューティングが含まれる。3番目はワークロード特化型のコンピュートインスタンスが増加することである。
クラウド2.0ではAIに対応したコンピュートインタンス(GPU、FPGA、AI特化型ASIC、量子コンピューティングなど)や、IoTエッジに適したコンピュートインスタンス(ARMアーキテクチャなど)など多様化が進む。
「ハイパーアジャイルアプリケーション」「DevOps/誰もが開発者」は、新しいアプリケーションアーキテクチャ/開発方法論の適用や、ITバイヤーの組織体制やスキルの変化といった大きな変革を示している。現世代のクラウドは従来型ITのアーキテクチャを継承することも可能であった。
しかし、DXアプリケーションといった「迅速性」「拡張性」「連携性」が求められるワークロードでは、アーキテクチャの刷新は必須となる。ハイパーアジャイルアプリケーションでは、クラウドネイティブアーキテクチャ/マイクロサービスに対応したPaaS(Platform as a Service)を活用することが増加する。
2021年には、新規開発アプリケーションの50%が、同PaaSを活用したものになるとIDCは予測する。アプリケーションアーキテクチャの刷新と並行して、開発方法論もDevOpsへと移行するであろう。また、DevOpsと関連して、ローコード/ノーコード(Low Code/No Code)の開発ツールが劇的に拡充、改良され、技術系以外の開発者が急増し、「誰もが開発者」の時代が到来する。
ローコード/ノーコードでは、2つの大きなトレンドがある。既存のアプリケーションを組み合わせて、業務担当者が必要とする業務アプリケーションを構築する「コンポーザブルアプリケーション」と、マイクロサービスベースの機能/プロセス/データをAPI(Application Programming Interface)連携によって開発する「イベント駆動型フレームワーク」である。特に、コンポーザブルアプリケーションでは、2021年には新規ビジネスアプリケーションの40%が技術系以外の開発者によって開発されるようになるとIDCは予測する。
5. 国内のIoT利用企業の1割が、データ流通エコシステムを通じ既存事業以外への
事業領域の拡大を図る
国内企業を「IoTに積極的に取り組む企業」と「IoTに対して様子見を続ける企業」という2者に分類した場合、両者を分ける最も大きい要因の1つがROI(投資対効果)である。つまり、国内の中堅中小企業を中心に、経営者の多くはIoTを活用したデジタルビジネス創出の必要性を認識しつつも、中長期的なROIの見極めが難しいことを理由に、IoTプロジェクトをPOC(Proof of Concept:実証実験)フェーズから本番環境に移行することを躊躇うケースが少なくないと考えられる。
こういったジレンマを解消する上で、IDCでは、各産業の企業は既存の競争ドメインだけでなく、他産業を含めて水平展開を行いIoTの活用を広げることが、投資のリスクヘッジを保ちつつ、効果的にデジタルビジネスの収益性を高める有効な手段になるとみている。
企業が既存のビジネス領域以外にも水平展開を行いIoTの活用を進めていく上で、複数産業間でのデータ連携を進めることが重要なポイントになる。たとえば、電力会社がスマートメーターを通じて収集する電力利用データを、運輸事業者が二次的に活用することで、配達時間の最適化などが可能になると見込まれる。
また、個人消費者が健康増進の目的で着用するウェアラブルデバイスを通じて収集される多様なバイタルデータを再利用することで、生命保険会社はよりカスタマイズされた保険サービスを開発することが可能になると言える。IoTビジネスの水平展開を念頭に、企業は複数産業間でのデータ連携を進めることが肝心になる。こうしたことからIDCでは、2018年末までに国内のIoT利用企業の1割が、データ流通エコシステムを通じ既存事業以外への事業領域の拡大を開始すると考えている。
6. コグニティブ/AIシステムが普及期に入り、2018年には2017年の2倍に市場が拡大する
コグニティブ/AIシステム市場は、2017年の国内市場ではブームとも言える状況であったが、IDCでは実際のビジネスに対する適用は少数であり、POCが大多数を占めていたと推定している。こうしたユーザーは2018年以降に、AIの効果的な適用領域を見付け出して、本格導入フェーズに移行するとIDCでは予測している。
この背景には、AIの適用領域(用途)の拡大があり、現在の主流である大規模なデータ分析に対する集計の迅速化と異常値の検出、顧客サポート(コンタクトセンターでのオペレーター補助など)や金融機関での不正検知から、サービス業での専門家サービスの補助や、業務と製品品質の向上を目指す製造プロセスの改善、チャットボットへの適用による流通業での自動受注プロセスの実行、サイバーセキュリティ対策へのAIの利用など、より具体的な業務補助の役割への拡大が見込まれる。さらには、AIスピーカー、AR/VRへの適用や、消費者向けロボット、自動車などの消費者向けのAI利用の拡大が進み、「誰でも、どこでもAI」に触れる環境が整う。
AIの活用は、従来はAIとは無縁と思われた領域でも進む。たとえば、従来はデータを保存し管理するだけと思われてきたDBMS(Database Management System)において、オラクルはAIを活用して、自律的に修正パッチやアップデートを行ったり、従来は保守要員が行っていた保守作業を自動化する機能を付加し、ダウンタイムの削減や性能チューニングの自動化を行うOracle Autonomous Databaseを2017年10月に発表した。
また組立製造工場では、工場のラインコントローラーで稼働している組込型CPU(MPU)をそのまま使って、推論実行のための新たな機器投資をせずとも、学習済みの深層学習プログラムを実行できるように、PythonからC++へのトランスレーターを持つ「e-AI開発環境」をルネサス エレクトロニクスが2017年11月に発表している。
このように、AIはその適用範囲を広げ、IoTやOTを含むあらゆるアプリケーションで活用されるとIDCではみており、これを「パーベイシブAI」と呼んでいる。こうしたAIの適用領域の拡大は、働き方改革の本格化を迎える2018年~2019年には東京オリンピック/パラリンピック向けの投資と共に、急速に普及するとIDCではみており、2017年の市場規模275億円から2018年には549億円と約2倍の規模に急成長し、2019年には1,000億円を超える規模になると予測している。
AIのパーベイシブ化によって、あらゆるアプリケーション/ワークロードにAIが利用されることになり、既存の第2のプラットフォームをベースとしたアプリケーション/サービスに対して、第3のプラットフォームへの移行を促進し、新たな付加価値やイノベーションを提供することになる。この潮流に乗り遅れるIT(第2のプラットフォームに留まり続けるIT)は次第に競争力を失い、市場から脱落していくとIDCではみている。
7. GDPRによるデータ主権の脅威に企業がさらされ、データ保護に対する
ブロックチェーンの有効性が試される
2018年5月に施行が予定されているEUの一般データ保護規則(GDPR)は、海外のパーソナルデータを移動させたとしても、パーソナルデータの所有者の居住場所の法律が適用されるデータ主権の概念に基づいた法規制であり、EUの住民のパーソナルデータが含まれている場合は、EU圏外の地域であってもEU GDPRが適用される。
EU GDPRばかりでなく、シンガポールの個人情報保護法(PDPA)など海外でのデータプライバシー法は、データ主権に基づいた法規制になりつつあり、プライバシー保護に対して厳しくなっている。このため、企業における顧客や社員のパーソナルデータの取り扱いは、管理責任の明確化や、個人データの取り扱いの厳格化など、プライバシー保護を考慮したビジネスプロセスの見直しが必要となり、サイバーセキュリティとデータ保護のテクノロジーを導入し、厳密なデータ活用を実施していくことが求められる。データ保護のテクノロジーでは、ブロックチェーンが注目されている。
ブロックチェーンは、P2P(Peer to Peer)ネットワーク、分散台帳、暗号化、スマートコントラクト、コンセンサスアルゴリズムなどの複数の技術を組み合わせた、完全性と可用性が高い堅牢な分散型記録管理システムを実現する。情報セキュリティでは、「機密性」「完全性」「可用性」の3つの要素を確保することが求められる。その点ではブロックチェーンは、情報セキュリティ対策として有効なテクノロジーである。
パーソナルデータ管理でブロックチェーンを活用することで、「完全性」と「可用性」を高めることができるが、法的課題も考慮しなければならない。ブロックチェーンの特性の1つである匿名性は、身元確認と開示、情報公開などの適法性が問題となる。EU GDPRの施行によって、パーソナルデータの保護に対するブロックチェーンの適法性の問題が議論され、検証が進むことで、ブロックチェーンの有効性が試されるとIDCは考える。
8. エンタープライズインフラストラクチャ支出モデルの多様化が進むと共に、
ベンダー間の競争力の差が広がる
2018年の国内エンタープライズインフラストラクチャ市場の支出額(サーバー、ストレージ、イーサーネットスイッチ)は7,023憶3,400万円で前年比2.6%減と予測する。また、2016年~2021年のCAGRはマイナス0.8%と予測している。
支出額全体のマイナス傾向が続く中で、エンタープライズインフラストラクチャに対する支出モデルの多様化が進むと共に、最新テクノロジーの採用がエンタープライズインフラストラクチャの市場構造を変えていく。2018年はそうした変化が加速し、ベンダー間の競争力の差が広がる年になるとIDCでは考えている。
IDCはエンタープライズインフラストラクチャの支出モデルを「アプライアンス(Appliance)」「ソフトウェア(Software Only)」「コンバージドシステム(Converged System)」「ハイパーコンバージドシステム(Hyperconverged System)」「サービス(Service Based)」の5つに分類している。
支出モデルが多様化しているのは、ユーザー企業のインフラに対するニーズの多様化(高信頼性、高可用性、導入の迅速性、柔軟な拡張性、運用管理の容易性、運用管理コスト削減など)に伴い、専用ハードウェアとそのハードウェアのみで稼働する専用ソフトウェアが密結合したアプライアンスの登場によって、従来型エンタープライズインフラストラクチャでは対応することが困難になっているためである。
DXに取り組む企業が増えると共に、ユーザー企業にとっては多様化した支出モデルの中から自社のDXを支えるインフラストラクチャに最適な支出モデル(あるいは支出モデルの組み合せ)を選定することが重要な課題になる。一方、ベンダーにとっては、多様な支出モデルの提供能力が問われることになる。
多様な支出モデル(またはその組み合せ)を提供できるベンダーはより多くのビジネス機会にリーチすることが可能になり、ユーザー企業のインフラストラクチャの選定に関わるパートナーとしての信頼を獲得できる。IDCでは、多様な支出モデルの提供能力が、中長期的にはエンタープライズインフラストラクチャ市場におけるベンダーの競争力に大きな影響を与えると考えている。
9. AR/VRの業務利用がIT導入に積極的な企業で本格化し、
音声インターフェースの業務活用がスタートする
2017年、VR(Virtual Reality:仮想現実)技術は、マーケティング用途を筆頭に多くの分野で初期的なビジネス利用が始まった。同年下半期には、Windows 10 Fall Creators Updateに続きMicrosoft Mixed Realityヘッドセットが各ベンダーから発表され、大きな話題を呼んだ。VR技術のビジネス利用はさらに加速することが見込まれ、特に2018年は今後のビジネス利用拡大の素地を確立するためのUI(User Interface)に関する技術の標準化がスタートするとIDCではみている。
同様の展開はAR(Augmented Reality:拡張現実)の分野においても生じると考えられる。ARヘッドセットは製造上の難易度や価格の問題などもあり、2017年まではユーザーの裾野の広がり方に停滞が見られる場面もあったが、2018年は初期段階とはいえAR技術のビジネス利用の展開に弾みがつくとIDCでは予測している。
スマートフォンの出現によって、国内におけるモバイルユーザーは急増し、1人当たり複数台のモバイルデバイスを所有している。2018年は「業務での音声活用」の元年になるとみられる。Amazon EchoなどAIスピーカーなどの国内販売開始も追い風になるであろう。2020年までにさまざまなエンタープライズ向けスマートフォンアプリで音声対応のAIが採用され、業務での音声入力が本格化する見通しである。
その背景にはAmazon Alexa、Googleアシスタント、IBM Watson、Samsung Bixby、Apple Siri、Microsoft Cortana、LINE Clovaなど音声対応AIプラットフォームの出現が大きく影響している。2018年には、これら音声対応AIプラットフォームのモバイルアプリケーションでの実装検証が開始されるとIDCではみている。
すでに、LINEやFacebook MessengerなどのSNS(Social Networking Service)やメモなどを取るモバイルアプリ上で、音声入力/文字読み上げ/翻訳など音声インターフェースが利用できるようになっていることから、今後業務での活用が進むとみている。こうした音声インターフェースを活用することで、効率性が高まり、従業員の生産性が向上すると考えられる。
スマートフォンでのフリック入力やタブレットでのソフトウェアキーボード入力よりも、音声インターフェースが優れていることが認識され始める。2019年以降には、音声による会議議事録作成、ボイスメール、音声による認証システムなどが、企業ユーザーにとって基本的な役割を果たすものになるであろう。さらに業務上必要な書類を正確に読み上げる機能など、音声の文字変換、文字の音声変換が、業務において有用になるとみている。
10. 企業の情報システム部門/情報システム子会社向けの組織変革コンサルティングの
ニーズが拡大する
企業の情報システム部門、情報システム子会社は、DXの本格化を迎え、岐路に立たされている。これまでさまざまなITハードウェア、ソフトウェア、サービスを通じ、企業の業務効率化を支援したり、競争力の強化を実現したりといった役割を果たしてきた情報システム部門、情報システム子会社であるが、DXが企業の戦略的な課題に上ることが増える中で、DXが要請するスキルや能力と、これら部門/子会社が持つスキル、能力とのミスマッチが顕在化してきた。
たとえば、クラウド、AI、IoTなど新たなデジタルITに対する理解、それらをビジネスに生かすための適切な導入手法、自社事業への深い知識、そしてなにより業務の「変革」を手掛けていく能力などである。 とはいえ、自らの組織を変革することや、部門/子会社内人材のスキル転換を行うことは容易なことではない。現時点で手本となるような組織は極めて少ないであろうし、また企業それぞれに置かれた状況の違いを考慮すると唯一絶対の解決方法があるわけでもないであろう。
したがって企業の情報システム部門では、「自社に最適な情報システム部門/情報システム子会社の在り方」を、外部の企業、たとえばコンサルティングファーム、ITサプライヤー、他社の情報システム部門などと模索していく動きが強まり、新たなコンサルティングのテーマとして取り組むであろうとIDCではみている。
こういった課題解決のために、「情報システム部門変革コンサルティングサービス」のようなパッケージ化されたコンサルティングメニューを準備するコンサルティングファーム、ITサプライヤーも多く、そういったサービスはすでにいくつか見られる。しかしIDCでは、このような正解がはっきりしない課題にこそ、ITサプライヤーが昨今重視する「共創」のアプローチが有効であると考える。
企業情報システム部門と、ITサプライヤー、さらには情報システム子会社、経営者、事業部門、DX推進部門などが情報システム部門/子会社の在り方を一定の時間をかけて議論し、作り上げていくことは、まさに「共創」が成し遂げるべき重要課題である。単に情報システム部門/子会社からの視点だけではなく、企業全体のDX、社内外データの効率的/有効な活用、DXシステムと既存ITシステムとの連携、ITガバナンスの在り方など、多くの視点が必要となる。
こうした企業の根幹に関わるような課題解決を通して、ITサプライヤーの「共創」アプローチの真の力が見えてくる。企業情報システム部門の変革に向き合うことは、ITサプライヤー自身の顧客接点における変革を問うものにもなると、IDCではみている。
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IDC Japan リサーチバイスプレジデントの中村智明氏は「2018年は、デジタルネイティブに生まれ変わる企業が出現する一方で、デジタルビジネスを創出できずに脱落する企業が出てくる年になる。ITサプライヤーにとっては、デジタルビジネスの良きパートナーになれるか、市場が縮小するレガシーシステムの保守ビジネスだけに甘んじるかの分かれ目の年となり、社内外の構造変革の実行を迫られるであろう」と述べている。
今回の発表は、IDCが発行したレポート「Japan IT Market 2018 Top 10 Predictions:デジタルネイティブ企業への変革 ─ DXエコノミーにおいてイノベーションを飛躍的に拡大せよ」にその詳細が報告されている。レポートは、2018年の国内IT市場で注目すべき動向についてIDC Japanのアナリストが議論し、主要な10項目の事象を取り上げ、考察/展望としてまとめるとともに、ITサプライヤーへ向けた提言を行っている。