この「IBM Qネットワークハブ」の各メンバーは、慶應義塾大学理工学部矢上キャンパスから、米ニューヨーク州IBM Thomas J. Watson Research Centerに設置された20量子ビットの商用量子コンピューターIBM Qシステムにクラウドを通じてアクセスし、慶應義塾大学の教員・研究者・学生と密に協力しながら量子アプリケーションの開発を進める。
慶應義塾大学理工学部は、IBM Research、オークリッジ国立研究所、オックスフォード大学、メルボルン大学とともに世界に5カ所あるIBM Q ネットワークハブの1つ。IBM Q ネットワークにより、ハブ間の協働やIBM研究者およびエンジニアとのコラボレーションが強固になり、実用的な量子アプリケーションの開発に特化するという。
IBMの量子コンピュータは、量子ゲートを組合せて汎用的な計算を行う方式で万能量子コンピューターと呼ばれる。米Googleが買収したカナダD-Wave社が進める量子アニーリング方式とは異なる。
慶應義塾大学理工学部長 伊藤公平氏は下記のように語った。
「IBM Qシステムはあらゆる量子アルゴリズムが実行できるゲート式の万能量子コンピューターで、最適化といった特定の問題に特化した量子アニーラー等とは一線を画す。本学からアクセスできるIBM Qは20量子ビットだが、近い将来には50量子ビットに発展する。過去20年間にわたり慶應義塾大学が発展させてきた量子コンピューティングの研究レベルと、ハブに参加するメンバー企業のニーズを合わせることで、実用的な量子アプリケーションを開発する。」
またIBM Research バイスプレジデント ボブ・スーター氏は、今回の取り組みはハブの構想であることが非常に重要だという。
「具体的な課題に答えるためのソフトの研究にはじめて取り組むことが目的で、化学や金融など様々な分野のアプリケーションをできるだけ早い時期に世の中に出していきたい。慶應大学と産学協同のハブを確立し、量子コンピューティングのコミュニティの構築を推進したい。」
慶應義塾大学 量子コンピューティングセンター長の山本直樹氏は、「量子コンピューティングでは、これまでソフトウェアの研究がまだ進んでこなかった」と述べ、世界最先端の量子コンピュータのマシンにキャンパスのマシンからリモートアクセスし、プログラム開発をおこない、実行命令を出すことで、ソフトとハードの一体化した研究をおこなう仕組みについて紹介した。
また山本氏は、量子コンピュータが与えるインパクトは大きく、新規材料探索や金融リスク計測、製造プロセスの最適化、機械学習など社会課題の解決への応用が考えられると述べた。
また、会見と当日には、JSR、三菱UFJ銀行、みずほフィナンシャルグループ、三菱ケミカルの各代表が今後の期待と賛同のコメントを以下のように語った。
「材料開発の分野の原子化合物からバルクまで幅広い領域で子コンピュータの応用の可能性を追求する。」(JSR四日市研究センターセンター長 小宮全氏)
「金融業界の新たなサービスに応用が期待できる他、既存のシステムにおける暗号化の分野にも影響を与える。今回のハブに参加し実用化に向けて貢献したい。」(株式会社三菱UFJ銀行 取締役専務執行役員 亀澤宏規氏)
「あらゆる産業の進歩のスピードが量子コンピュータと登場で格段に早くなる。量子コンピュータの研究への参加により、先進的な金融サービスへの活用に取り組みたい。」(株式会社みずほフィナンシャルグループ 執行役員 加藤純一氏)
「今取り組まなければ世界と戦えないという思いから参加を決意した。持続可能な社会の実現に貢献する新素材開発や新たな研究手法の確立に挑戦し、次世代の研究者の育成の拠点としていきたい。」(三菱ケミカル株式会社 常務執行役員 垣本晶久氏)