翔泳社は1月30日、「IT Compliance SUMMIT 2009 Winter」を開催した。今回のテーマは「守りの内部統制から、攻めの業務改革へ―企業会計ルネッサンス」。内部統制、国際会計基準の適用など、めまぐるしく変化し続ける経営環境をいかに積極的に乗り切るかという視点で、14のセッションが催された。
基調講演では、元財務大臣で現在は東洋大学総長を務める塩川正十郎氏が登壇。「これからの日本」と題して、現在の日本の政治状況や経済の景気対策について独自の視点から講演を行った。
オバマ就任演説で考える、日本の3つの課題
100年に1度といわれる経済危機が取りざたされる中、世界同時不況の震源地となったアメリカではオバマ新大統領が誕生した。就任演説では、現在のアメリカが抱える課題や今後の施政方針が語られたが、これを聴きながら塩川氏は日本にとっての3つの課題について思いを馳せたという。
金融市場の自由化が必要
ひとつは、日本の経済金融政策に対する姿勢だ。金融証券化によってバブルとその崩壊を巻き起こし、世界経済に大打撃を与えたアメリカ。しかし、オバマ新大統領は、市場経済や新自由主義についてマイナス的な捉え方はしていない。むしろ、その使い方を正すため、規制や監視を整備するという前向きな対応を示している。塩川氏はこの姿勢に賛同する。「管理管制体制を整備することは、今後の金融の自由な発展を期待するための信頼回復という点において非常に重要なこと」(塩川氏)。
国際協調路線を重要視すべき
2つめは、日本の国際協力のあり方だ。オバマ大統領がアメリカ国内の経済対策として掲げたグリーン・ニューディール政策だが、その実施には1兆3000億ドルとも言われる莫大な資金が必要となるという。既に70兆円とも言われる景気対策のほか、減税を含む経済政策を行っているアメリカにとって、さらなる財源の獲得は大きな課題である。
となれば、日本にも何らかの協力を求められることは必至だ。塩川氏は、アメリカへ協力姿勢を積極的に示すことが重要だと述べる。「以前と比較して日米関係は冷え込んできているが、今回の経済危機脱出における協力は関係回復の一助となるはず」(塩川氏)。
同氏によれば、日本が求められると予想される支援は金融支援と内需拡大の2つ。前者については、現行のIMF経由の資金提供ではなく、アメリカへの直接的な支援を行うことが重要。後者については、労働生産性の向上という方向ではなく、規制緩和による新規雇用の創出が望ましいと見る。また、規制の撤廃が世界経済に門戸を開くことにもなると付け加えた。
国内各制度の見直しが必要
3つ目は、戦後的制度の見直しだ。オバマ新大統領は、イスラム教徒などを含む多様な属性を持つ人間によってアメリカが成立していることを明言した。これは、アメリカという国家が多様性を重んじる方向へシフトしていくことを示唆するものであり、今後は国際社会での振る舞いも変化していくだろうと塩川氏は考える。具体的には、従来の一国覇権主義を脱却し、各国とパートナーシップを結ぶ形になる。その中では、必然的に日米関係の見直しも迫られることになるだろう。
塩川氏は、このような変化を日本の各制度を見直す格好のチャンスだと捉える。第2次大戦後、日本は東アジアにおける唯一の民主主義国として、自助努力以上の多大な恩恵を得た。また、このような背景の下で各種制度も最適化されてきた経緯がある。しかし、東西ベルリンが統一され、グローバル化がすすむ現在の国際社会においては、日本を取り巻く環境も大きく変化し、過去に文脈に沿った制度では不具合が生じている。「これまで連綿と続いてきた経済秩序、経済規制、習慣といったものについて、このままで良いのか見直しをする必要がある」(塩川氏)。
経済が大転換期を迎える中、日本は多くの課題を抱えている。「新しい時代に向かって、制度もやり方も見直しをするということが必要。そのためには、さまざまな要素を包括した総合政策が必要である」と述べ、60分間にわたる熱気のこもった講演締めくくった。