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IT部門でのジョブ型導入の効果獲得は限定的と予測【ガートナー IT/デジタル人材戦略に関する展望】

  2021/03/22 15:15

 ガートナー ジャパン(以下、ガートナー)は、新時代のIT/デジタル人材戦略に関する展望を発表した。本展望では、これからのITおよびデジタル人材戦略に大きな影響を与えるトレンドの中でも、特にジョブ型組織、従業員価値提案(EVP)、従業員幸福度(またはウェルビーイング)に焦点を当てているという。

 ディスティングイッシュト バイス プレジデントでガートナー フェローの足立祐子氏は、「日本のCIOは現在、既存システムの改善および運用保守と、デジタル・ビジネス・トランスフォーメーションの推進を両立させるという厳しい課題に直面していますが、今後も人材市場の逼迫状況が急速に緩和される見込みはありません。CIOは、限られた人数の中からでも最大のパフォーマンスを発揮できる人選を行い、ソフト面の環境を整備することで、人材不足の難局を乗り越えてデジタル・ビジネス・トランスフォーメーションの実現に向けて取り組むべきです」と述べている。

 また、ガートナーはかねて従業員エンゲージメントを重視した新たなIT人材戦略を推進すべきとの見解を述べているとし、従業員エンゲージメントを強化することは、従業員の働く意欲や意識を向上させ、結果的にパフォーマンスも上がる可能性が高いことが調査からも明らかになっているという(図1参照)。

図1.適切な従業員エンゲージメントが従業員の意識とパフォーマンスに与える影響 出典:Gartner(2021年3月)
図1.適切な従業員エンゲージメントが従業員の意識とパフォーマンスに与える影響 出典:Gartner(2021年3月)
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 前出の足立氏は次のようにも述べている。「今日、日本のIT人材戦略は転換期を迎えています。CIOは、従来の画一的な人材管理手法から脱却し、1人ひとりの従業員が最良のパフォーマンスを発揮できるようにしなければなりません」。

ジョブ型組織を導入した日本企業のIT部門のうち、2025年までに効果を獲得する組織は10%にとどまる

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として多くの企業でリモートワークの導入が進んだ結果、各社員の業務を明確化し管理を容易にしたいという欲求からジョブ型組織に対する関心が飛躍的に高まっているという。ジョブ型組織(または雇用)の導入は一部の大企業で進んでいたが、2020年には中小企業でも導入に関する議論が開始されているとしている。

 IT部門においてジョブ型組織が機能するためには、様々な条件を満たす必要があるという。たとえば、「役割が明確に定義できること」「役割が固定的で変化が少ないこと」「業務の進捗と成果を可視化し共有できること」「IT部門がユーザー部門と対等の関係にありプロジェクトの優先順位を決められること」「CIOが人事権を保有していること」「ジョブの変更にともなう解雇が可能であること」「従業員の自律性が高いこと」などが挙げられるとしている。

 これらの条件を満たさなければ、ジョブ型組織のメリットを享受することは難しいと同社は考えているとし、実際に条件を満たせるIT部門は少ないと推察されるため、ジョブ型組織を導入した日本企業のIT部門のうち、2025年までに効果を獲得する組織は10%にとどまると予測している。

2023年までに、日本企業の50%がIT/デジタル技術者の獲得を意識したEVPを作成する

 売り手市場が続く中、技術者の獲得においてはマーケティング活動が極めて重要になっているという。ガートナーの調査において候補者は、「給与、待遇」だけでなく、「同僚」「働く環境」「企業ブランド」などの要素を比較検討し、就職先を選定していることが明らかになっている。多くの日本企業が優秀な技術者の獲得に苦戦している中、成功している企業の特徴として、組織のミッションや所属メンバーの働きぶりなど、内部の状況が様々な方法で広く公開されている点が挙げられるとしている。企業が適性の高い候補者を集めるためには、自社が従業員に与えることのできる価値を明確化することが不可欠になっているという。

 足立氏は「IT/デジタル技術者の獲得を意識したEVPを設定することによって、CIOは採用市場で優位に立てるようになるだけでなく、IT部門に所属する既存の従業員の管理にも良い効果をもたらすことが期待できます。たとえば、従業員が重視する項目と満足度を定期的に計測することによって、IT部門の強みと潜在的な課題を見つけられるようになります。モチベーションの源泉は個人によって大きく異なるとはいえ、共通性の高い項目に優先的に取り組むことにより、組織全体の活性化につなげられます」と述べている。

2025年までに、日本の上場企業の50%は、デジタル・ビジネス・トランスフォーメーションによる「従業員幸福度の向上」をESG(環境、社会、ガバナンス)開示情報に含めるようになる

 企業価値の持続的成長を占う「非財務情報」として、ESGへの取り組みは投資家にも注目されているという。上場企業の経営者にとってESG情報の開示は今や必須であり、確実かつ迅速な目標の達成が求められるようになっている。同社は、「人材」が社会貢献の観点でESGの重要な要素になるとしている。人材への取り組みについて、投資家の関心の1つは労働生産性だが、それと同等以上に今注目されるのが「従業員幸福度(またはウェルビーイング)」への企業の対応姿勢だという。

 マネージング バイス プレジデントの山野井聡氏は、「多様で有為な人材が幸福を感じながら長く勤め続けられる仕組みが、長期的な企業価値の成長には不可欠であると投資家は考えています。2020年にガートナーが世界の企業経営層を対象に実施したサーベイでは、『COVID-19は、今後の従業員の働き方を恒久的に変える』と予想する回答が実に74%を占めていました。日本企業にとってもCOVID-19は、これまでの働き方を抜本的に見直す契機となるでしょう。それにより、『従業員幸福度の改善にIT/デジタル技術をもって貢献する』という新たな課題がCIOに突き付けられています。CIOには、労働生産性と従業員幸福度の向上への貢献が求められます」と述べている。

 今後、東証1部上場企業のほとんどが、ESG活動の情報開示を強め、従業員幸福度の向上を目標の1つに据えてデジタル・ビジネス・トランスフォーメーションを推進するとしている。そのため、2025年までに、日本の上場企業の50%は、デジタル・ビジネス・トランスフォーメーションによる「従業員幸福度の向上」をESG開示情報に含めるようになると同社は予測しているという。

 足立氏は、「自社に適した人材をそろえられるかどうかが、これからのデジタル・ビジネス・トランスフォーメーションの成否を決定すると言っても過言ではありません。CIOは、IT部門のみならず企業全体のIT人材戦略の立案と実行に、より積極的に関与すべきです」とコメントしている。

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