SAPジャパンは7月21日、次世代の企業変革ビジョン「Autonomous Enterprise(自律型エンタープライズ)」を発表した。
同日に開催された説明会では同社の本名進氏が登壇し、このビジョンを実現する戦略とソリューションを説明した。同氏は、多くの企業がAI活用においてPoC段階で停滞する理由として、「ビジネスプロセスとコンテキストの欠如」「断片化したデータ」「実行ガバナンスと信頼性の欠如」の3点を挙げる。
SAPはこの課題に対応するため、AIエージェントのための統合基盤「SAP Business AI Platform」を発表した。これは、SAP Business Technology Platform(SAP BTP)、SAP Business Data Cloud(SAP BDC)、SAP AI Foundationの機能を統合し、業務データやプロセスの文脈を理解したAIエージェントの構築・実行・ガバナンスを一元管理する基盤となる。そして、その上で稼働する5つの業務領域向けソリューション「SAP Autonomous Suite」も新たに展開している。
SAP Business AI Platformは「開発」「コンテキスト・推論」「ガバナンス」の3層で構成される。なかでも、コンテキスト・推論層の中核となる「SAP Knowledge Graph」は、数千の標準プロセスと730万項目におよぶ基幹データの関係性を構造化した構造体であり、自然言語の指示に対してコンパスのように機能して文脈を解釈し、適切なデータモデルへマッピング(グラウンディング)を行うという。また、SAP独自のコードやドキュメントで直接学習された「SAP Domain Model」が2026年第3四半期(秋)に一般提供開始予定だとしている。
表形式の構造化データに対しては、事前トレーニング不要で配送遅延予測や異常検知を行える基盤モデルとして、「SAP-RPT-1.5」を2026年第3四半期に提供開始するとした。一般的な大言語モデル(LLM)は非構造化テキストの処理を得意とするが、ERP内の表形式データからの推論は課題とされてきた。SAP-RPT-1.5はこれに対し、事前トレーニングを不要とし、過去の履歴データから配送遅延予測や支払い異常検知などを実行できるという。
さらに、非SAPデータに対する予測精度を高めるため、表形式データ向け基盤モデル(TFM)を提供するPrior Labsを買収。SAP BDCにおいては、マスターデータ管理のReltio、レイクハウスベンダー Dremioの買収も完了している。DatabricksやSnowflakeに加え、Amazon AthenaやGoogle BigQuery、Microsoft Fabricともデータを複製せず双方向参照できるゼロコピー技術を順次展開するとした。
ガバナンス層では、企業内の全AIエージェントやLLMをカタログ管理する「SAP AI Agent Hub」が、IT資産管理ツールである「SAP LeanIX」のいち機能として役割を果たすという。またオブザーバビリティ機能も強化するとして、プロセスマネジメントツール「SAP Signavio」を活用した「エージェントマイニング」や、アプリケーションライフサイクルを監視するソリューション「SAP Cloud ALM」と連携した運用監視機能を、同年第3四半期に統合する予定だとしている。
続いて登壇した同社 織田新一氏は、日本企業における「AI人材の不足」や「スキルの追随不可」という課題に言及し、「汎用AIを駆使して個別に業務を効率化するアプローチは、基幹業務においては属人化リスクにつながる」と指摘する。その上で、業務プロセスの知見をあらかじめ組み込んだAIアシスタントを標準機能として提供し、特定個人に依存しない仕組みとして提示することが、SAP Autonomous Suiteの背景にあると述べた。
SAP Autonomous Suiteは、財務(Autonomous Finance)、支出管理(Autonomous Spend)、サプライチェーン(Autonomous SCM)、人事(Autonomous HCM)、顧客管理(Autonomous CX)の5つの領域で構成される。51のJouleアシスタントと224のJouleエージェントの実装が予定されており、「ロール中心」「成果重視」「監査対応」「拡張性」「オープン性」の5つの柱で自律化を支えるという。
最後に織田氏は、企業がAutonomous Enterpriseへ進化するためのアプローチ「エージェント主導型変革」について解説。既存ERPのクラウド移行において課題となる大量のアドオンや複雑なシステム連携に対し、「RISE with SAP Methodology」の中で「System Analysis Assistant」や「Custom Code Assistant」など7つの専用AIアシスタントを提供し、移行工数の50%削減を目指すと述べる。既存顧客向けの「RISE with SAP」と新規顧客向けの「SAP GROW」を通じ、クラウド移行と変革を統合的に支援する方針を示した。
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