
ビックデータ、オープンデータ、データサイエンティスト等、ITの世界では昨今、データに関する話題がホットです。どれだけ精度の高いデータを数多く集められるかが企業の業績を左右し、データを分析する力が個人のキャリアアップのために有用な時代となりました。
このような新しい話ではなくても、ITにとってデータは重要です。どんなに良いプログラムを作っても、扱うデータが不正では、コンピュータはまともな答えを出しませんし、下手をするとデータの不整合がシステムを停止させたり、壊してしまうこともあります。特に最近は、オンプレミスで動いていたシステムをクラウドに移すことも増えており、こうした作業に関するトラブルの話もよく耳にするようになりました。
不整合データの移行が失敗した訴訟の例
データ移行を請け負ったベンダが作業ミスをして、データを壊したり滅失してしまえば、その責任をベンダが負うのは当然の話ですが、たとえば、元々、ユーザの持っていたデータに不正があり、そのためにシステムの移行作業が遅れたというような場合はどうでしょうか。
それは不整合のあるデータをそのまま渡したユーザの責任でしょうという考えは自然な気もします。しかし、一方でITの素人であるユーザが持っているデータの不整合まで責任を持てるのか、ベンダは専門家なのだから、システムのデータ不整合があるのなら、それを見越した作業計画を立てておくべきだったという論もあります。今回はそんな訴訟について取り上げたいと思います。
(東京地裁 平成28年11月30日判決より)
建築現場の足場等の資材リース業を営むユーザは、リース契約の管理システムを運用していたが,このシステムには不備があり、リース物件が滅失した場合の処理において、データ不整合が生じるという問題が発生していた。ユーザは,これを解消するための新システムの開発を希望し、あるベンダに新システムの開発と旧システムからのデータ移行を委託した。
ところが、新システムは、旧システムからの移行データに不整合が多数存在した為に正常に稼働せず本稼働時期を守ることができなかった。
ユーザ側は、このことはベンダの債務履行遅滞にあたるとして、契約を解除し損害賠償等を求めてユーザを提訴した。
データの不整合を理由にシステムの刷新を行なうというわけですから、ユーザもベンダも旧システムからのデータに問題があることは分かっていました。ただし、契約の内容は、今後、そのような不整合を起こさないようなシステムを作ることと、旧システムからのデータ移行であって、古いデータを修正することまでは明示されていなかったようです。契約として肝心なところが抜け落ちていたようです。ユーザからすれば、契約の目的は、新システムが正常に稼働して業務が改善することにあるのだから、古いデータへの対処も当然にベンダがやってくれることと考えていたようですし、ベンダからすると、請け負った内容にそこまでは含まれていなかったと考えていた節があります。
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細川義洋(ホソカワヨシヒロ)
ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...
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