成功のポイントは「できるところからやること」
こうした「インフラのコード化」による先進的な取り組みは欧米で数多く進んでおり、「Everything as Code」としてエンタープライズのITに根付かせようという意識が高いという。
例えば、ヒューレット・パッカード エンタープライズ(以下、HPE)自身もまた、様々なアプリケーションを多く開発する中で「Everything as Code」を掲げ、アプリケーションはもちろん、コンフィグレーション、環境、データ、インフラと、変更が発生するものは全てコード化を進めている。そして、継続的なデリバリのパイプラインに乗せ、組織統一の変更・導入管理を実施することに成功した。導入のポイントは、全てを一気にコード化・自動化しようとせずに、「できるところからやること」だという。
かつてはHPEでも一部の部門による断片的な取り組みで、ツールもサイロ化され、プロセスやテンプレートに基づくリソースデプロイだった。それがコード化が組織横断的に活用されるようになり、統一された継続的デリバリ環境を実現し、APIによる動的なリソースデプロイが可能になった。ハードまで含めたコード化によって、あらゆるプロセスの自動化が進み、400の変更を2週間でできるようになり、それもダウンタイムなしで実現できるようになったという。
中井氏は「インフラのコード化において『Everything as Code』を掲げて『迅速性』『コスト削減』『リスク排除』を追求することで、組織への定着を図り、効果の最大化を測ることができる」と語る。ハードも含めてコード化すれば迅速性が高まり、組織横断的な活用促進がかなえばコスト削減にもつながる。さらに統一された継続的デリバリ環境が実現すれば、リスク排除にもなる。当然、適用の範囲が拡大すれば、効果の範囲も広がる。これを「小さく始めて大きく育てる」というわけだ。
実は日本においても、Ansibleを一人の担当が使い、それが部門長に上がって部門内で使われるようになるといった話は少なくないという。その際、例えば権限を持ってコントロールする、フローを束ねて管理するなど、組織として活用するにはAnsible Towerなどの有料ツールを利用するのがよい。標準化やガバナンス管理の徹底が可能になり、リスクを最小限に抑えられる。
そこで、マルチテナントでリソースを柔軟に切り替えるワークフローを構築し、また時間や分量などで分割して、標準化と再利用を図ることでリソースの効率向上やコスト削減につなげる。フローで権限を変えるなども、組織横断的に行う場合には必要になってくるという。
アプリケーションの開発フローとして、アプリケーションエンジニアとインフラエンジニアの工程を並行して走らせることは多いが、その際にインフラ側のパイプラインにもしっかりとデプロイテストなど自動テストツールなどをのせる。またChatOpsのようなものでコミュニケーションしながら、システムと連携させて状況管理する方法なども用意されている。
HPEの事例のところでも少し触れたが、コード化の範囲をハードウェアまで行う考え方も進化しつつある。これまではOSやアプリなどが中心だったが、ハードウェアインフラの抽象化を実現した製品が登場している。その製品「HPE Synergy」は、単一APIでコントロールができ、数分程度の迅速なインスタンス立ち上げや月額従量課金にも対応するなど、パブリッククラウドの運用性をハードの中に閉じ込めたイメージだ。
こうしたことは従来のサーバなどでもできなくはなかったが、それぞれで仕様が異なるAPIに対応し、それに合わせる必要があった。しかし「HPE Synergy」は、単一のAPIでサーバもネットワークもリソースも、全て管理ができるのが強みだ。
この「HPE Synergy」を活用した例として株式会社ジェーシービーの事例が簡単に紹介された。同社では、クラウドネイティブアプリケーションに特化したセキュアな開発環境を「HPE Synergy」上に構築。その結果、アジャイル開発体制を確立し、開発のスピード化と多様な開発要求に応える柔軟性を両立させ、同社のデジタルイノベーションを加速させているという。
最後に中井氏は「デジタライゼーションにフォーカスし、サイロのないマルチクラウド環境を実現するためには、 既存のオンプレミス/プライベート基盤の改革は必要不可欠。そして、インフラのコード化の考え方が有効となる。ツールは様々な選択肢があるので、是非とも相談の上、可能なところから進めてほしい」と改めて語り、セッションを終えた。
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