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マルチクラウド時代のリスクマネジメント入門

クラウドのメリットを最大限に活かすための留意点

 本連載においては、クラウド活用する上で考慮すべきリスクとその対応策について論じてきました。“守りの観点”が全面に色濃く出ており、そもそもクラウドを活用していくこと自体が正しいことなのかという疑問を持つ方もいるかもしれません。本連載の趣旨を改めて説明しますと「クラウドのリスクを正しく理解したうえで、その対応策も含めてクラウド導入を検討・推進していきましょう」ということになります。今回はこれまでと視点を少し変え、クラウド利活用上のメリット(目的)や活用事例を整理しながら、留意すべきポイントについて論じたいと思います。

クラウド活用の主要な目的(投資理由)

 まずはクラウド活用の目的(投資理由)について、2016年および2017年に実施した “KPMG CIO 調査”の結果をご紹介します(下表)。

<質問>現在クラウドに投資している理由について、上位3つを挙げてください
クラウド活用の目的(出所:「HARVEY NASH/KPMG 2017年度CIO調査」)

 こちらは海外も含む1,000社以上のCIOに対するサーベイの回答結果であり、以下大きく5つがクラウド活用の主要な目的であると見て取れます。

  1. 可用性や柔軟性の強化
  2. 俊敏性や即応性の強化
  3. 製品イノベーションの加速
  4. ベストソリューションの選択
  5. コスト削減

 もちろん、上記目的はクラウド活用によって複合的に達成されるものではありますが、コスト削減が先頭にきていないことに、多くの示唆が含まれていると感じます。実際にクラウドを積極的に活用している企業の推進担当者とお話をすると「QCD(※)のうち、Cのメリット享受は当たり前であり、むしろ、いかにQやDの面でオンプレミスを凌ぐメリットを得られるかが論点」といった内容をよく伺います。クラウド活用の様々な効能を正しく理解し、訴求し、活用していくことが各企業には求められます。

※QCD:Quality(品質)・Cost(コスト)・Delivery(納期)の略。もとは生産管理から派生した言葉で、広く「プロジェクト(取り組み)」が達成すべき観点としても利用される

 前述の目的を踏まえると、クラウド活用を推進する上で、各企業の中におけるシステム部門のあり方についての議論が避けられないことは自明です。第1回の連載でも触れましたが、既存のIT資産(人的資産含む)を多く保有する企業ほど、クラウド導入による効果(変革に伴う利益の享受)の大きさと比例して、クラウド導入後における既存資産の活用方法について慎重な検討が求められます。

 特にIaaS型クラウドの導入に際しては、大きな影響が発生します。「保有しているIT資産の償却はどうするか」「既存データセンターおよび人員の扱いをどうするか」「クラウド導入プロセスを誰が責任をもって構築していくのか」といった経営レベルでのITの在り方(ITガバナンス)を意識したクラウド推進が求められます。

 次に前述した目的に即した具体的な活用事例について言及していきますが、1つ1つの事例だけで捉えず、自社IT部門全体の在り方にも影響するものとして横断的に捉えながら、読み進めて頂ければと思います。

次のページ
目的ごとに見るクラウド活用事例と留意すべきポイント

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この記事の著者

宮脇 篤史(ミヤワキ アツシ)

KPMGコンサルティング株式会社 ディレクター国内システムインテグレーターにて業務用システムの企画・開発・運用および一連の管理業務に従事した後、2006年にKPMGビジネスアシュアランス(現KPMGコンサルティング)に入社。同社にてシステムリスク管理態勢の構築支援やシステム導入プロジェクト管理、シス...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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